会議は楽しい

WONO2007-12-06



「インカレ」と言えば世の中の大半の方にとってはスポーツ系の競技会と思われるだろうが、今シーズン当方の関わっているのは「インターカレッジ・コンピュータ音楽コンサート」のことである。コンピュータ音楽(しかもポップじゃない方の)業界というか学界というか、ごくごく狭いゲットーの中だけでしか通じない言葉ではあるが…


詳しくは公式サイトをご覧下さい
http://gs.idd.tamabi.ac.jp/ic2007/


要は日本中の、コンピュータで何やら前衛的かつ実験的な音楽を試みている学生さん&その指導教員たちが集って「こんなん出ました!」とやらかす、年に一度のフェスなわけね。今年は多摩美の情報デザイン学科が当番校なので、チーフプロデューサー久保田晃宏さん以下、実働部隊を率いる堀尾寛太くんと共に、当方も額に汗して働く予定となっている。ちなみに主な仕事は、研究室のPA機材貸し出しと打ち上げへの参加。(←全然額に汗してないじゃん)


で、今日はその打ち合わせがあった。


当方が関わるのは「パフォーマンス部門」だ。学内のメディアホールという場所をライヴ空間にしつらえる事になる。このハコはまさに単なる四角いハコで、何もないまっさらの空間なのだが、それゆえにたいへん使い勝手が良く、これまでもゼミやワークショップでライヴ空間として(今年は2度のディスコ空間として・笑)使いこんできた。ここをどうステージ・デザインするか、そしてどのようなタイムテーブルで進行するか…といった会議だ。


集まった学生諸君はさすが情報デザイン学科というべきか、テーブルにつくなり全員ラップトップをセットアップする。何か対戦型ゲームのような光景だ。


しかし、おいおい、ちょっと待てよ。


モニターのかげに顔を隠し、それぞれが自分だけの情報を個別にタイピングするこのようなスタイルで会議ができると思っているとしたら、それは会議が本来持っている可能性への冒涜である。


コンピュータは確かに、必要な情報をさっと取り出しプリントアウトしたり、とっさに必要となった情報をオンラインで読み出すのには、きわめて有益な道具だ。(実際、参加校から送られてきた『名前しかわからない民族楽器』の絵ヅラがgoogleの画像検索で一発でディグされた時は全員オーッこれがその楽器か!と感嘆したさ)また何か連絡事項をメモするのに、手書きより速くて記録性が高く複製も簡単なメディアであるのも確かだ。


だが「会議」とは何か。会議とは、ある課題(ここでは「敵」と言いかえよう)に対して、それぞれ得意な武器を繰り出しながら全員で力を合わせ、その敵をクリアするプロセスである。うつむいて手前の端末などに没頭していて、どうして敵が倒せようか。


会議とは、しっかり「敵」を見すえ、仲間と顔を見合わせながら、時にはアホなギャグとばしたり脱線なんかしながら、「そうだ!こんな手もあるんじゃない?」などとアイディアをぶつけあう場所でなくてはならない。会議とは、それぞれの脳が活性化しアドレナリンが湧き上がり、机上の空論が現実化する、この上なく楽しい時間でなければならない。それには、全員が顔を見合わせられ、「敵」をしっかり確認でき、自由に手を動かして新しい情報を書き込んだり貼り付けたり移動したりできる、空間のデザインが絶対に必要なのである。


実際のところ、大人たちが行うくだらない会議のほとんどの時間は、事前にペーパーでも刷って渡しておけば済むような既定事項の確認に費やされる。これは単に「意志決定プロセスにアナタも参加しましたからね。後で文句言わないでね?」と出席者を拘束するのが目的だ。そのような会議ならそれぞれがラップトップ眺めようと新聞読んでようと寝てようと、どーでもいい。だが、そんなテンションゼロの会議を、いやしくもクリエイターたらんという若い衆が真似してどうする!(以上、ラップトップを広げた学生たちを見て0.0001秒間の思考)


こんな時、会議の「空気」を一新するために当方のとる戦略は、徹底して「アナログ」である。


まず持参した差し入れのドーナツを机上にどかっと置く(ここで気のきいた助手さんがさっそく全員にコーヒーを配ってくれる)これ重要。「参加させられている」アウェイ感が「みんなで何か作戦会議やってる」刑事部屋のような空気に変わる。


それから、どこかからパーティションボードを持ち出して即席のホワイトボード代わりにし、全員の目線がそこに集まるようにする(要するに『敵』をわかりやすくする)。ボードに現場図面を貼る。テーマごとの紙も貼り、出てきたアイディアや課題をそこにどんどん書き込む。後日よそに問い合わせる疑問点は別のポストイットに記入してこれもそこに貼り付ける。自らライヴアーティストとして現場慣れしている堀尾くんはさすがで、こうしたやり方に瞬時に対応し、どんどん司会進行して議事を進めてくれた。スタッフも皆それぞれ知恵を出し合って、ノリ良くテンポ良く会議は進行していった。




学生たちの名誉のために付け加えておくが、本日突然とびこんだ当方と違い、彼らはこれまでも定例ミーティングを繰り返し、メーリングリストなどオンライン上でもものすごい作業量でガンガン働いてきた精鋭揃いである。だが最も大事なのは「グルーヴ」だ。ライヴの現場では瞬発力やスピード感が何よりも必要となるし、それを支えるチームのグルーヴ、空気は、その場で突然自然発生的に生まれるものではないのよ。……というわけで勝手ながら俺流でやらせてもらいました、今日の会議。あとは当日の健闘を祈る!




*[追記]

後から読み直して、不穏当な表現は改訂しときました(笑)実際、数年後にはラップトップどころか誰もが i-podかi-phone片手に親指でタイピングしながら会議しているのが普通の光景になっているかもしれないからね。エコロジーの観点からもペーパーレスの流れは止まらないだろうし。


しかしそんな時代になってもたぶん紙になぐり書きのスタイルにこだわっているであろう当方は、単に古い人間なだけかもしれない…… アッチョンブリケ