広告批評カンヌ総集編

WONO2007-11-10



今月号の広告批評を入手。ご存知の方も多いと思うがこの雑誌、これまで毎年11月になると、その年の初夏に行われたカンヌ広告祭の動向紹介(入賞作品のムービーCDROMが付録)が特集されてきました。


海外のCMって、かつては広告業界人かコアな映像オタク(それに当方のような自称『研究者』)が注目するだけの、マニアックな存在だったわけですが、ここ数年ぐぐっと存在感や注目度が上がってきた気がします。一番の理由はもちろん、YOU TUBEを始めオンラインのあちこちで、そうした映像を目にする機会が増えてきたということ。面白CMはすかさず世界中のブログやウェブにリンクされて、あっという間にアクセス増大!って流れですね。


話題のCMって言っても、かつては、たとえ広告批評で紹介されても「でも、いつTVで観られるかわからないよね…」と、偶然の出会い以外なかなか観る機会がなかったわけです。しかし今やYOU TUBEで、あるいはGOOGLEで検索かけて(要するにオン・ディマンドな方法で)すかさず観られる時代になりました。


「CMをショートフィルムとして楽しむ」ノリの先駆的存在としては、オールナイトで各国のCMを鑑賞するイベント『CM食べ放題の夜』とか、ある種のTV番組(かつての『11PM』や『トゥナイト』では、割とよく海外CMの特集をしていたように思う)とか、散発的には色々あったんですが、そういった企画の方向性の正しさが、いわゆる「WEB2.0」時代になって証明されたという事ではないかと思います。


で、入賞作品の映像自体はカンヌの公式サイトで観たり、公式DVDを購入する事もできる(ここで買えますが、研究費としてはけっこう躊躇する金額です…)とは言え、広告批評の面白いところは、審査委員長の談話やディレクターへのインタビューなど全体のトレンドや空気がコンパクトにわかるという点。なので毎年購入してきたわけです。


今年は、しかし、ちょっと趣向を変えて「ここ10年のカンヌを総括する」みたいな特集になってました。ま、記事部分では今年の様子が詳しく報告されているところもあって一安心でしたが。


とりわけ記者会見の模様をそのまま載せている記事は、物議をかもした今年のグランプリ『EVOLUTION』について「ヴァイラル広告として発表された作品をフィルム部門のグランプリにするのはアリなのか?」と疑義を呈するプレスと、反論する審査委員会とのやりとりが、現場の熱気を伝えて実に面白かった。


このグランプリ作品が象徴している通り、いまや話題の広告映像はネットで簡単に観られる時代。わざわざCD-ROMのようなメディアをスロットに入れてローディングする行為自体、めんどくさく感じられるようになってきたのは事実です。


とは言え、ネット空間がストレージメディアとしては実に頼りにならない存在であるのもまた事実。オンライン上のデータはそもそも、管理者の意向一つでいつ消えてもおかしくない不安定な存在なのだから。検索エンジンから一時名前が全て消え、某略説まで流れた『初音ミク』騒動のように、オンラインでは瞬間的に全てのデータが抹消される事だってあり得る。現に、当ジャーナルに貼りつけたYOU TUBEのリンクにも、既に削除されたものが多数あるようだし!


そう考えると、人々がオンラインへの依存度を高めている今のような時代こそ、実はCD−ROMだのDVDだのといった物理的アーカイヴの重要性が増しているんじゃないかとも思うんですね。毎年こつこつCD-ROM付録をつけ続けてくれたこの雑誌の功績を、あらためて高く評価する次第です。