デリシャス!

WONO2007-12-18



銀座で開かれている展覧会『アライトデザイン展 〜光の音色〜』を、妻子と訪れた。


これは年上の友人である東海林弘靖さんの展覧会。彼は最近『デリシャスライティング』という本を出版した照明デザイナーなのですが、これはそのブク発(『レコ発』に習って出版記念イベントをこう呼んでしまおう。←たぶん誰も追従しない)企画です。


銀座の古いビルヂング奥野ビル」の3室を使い、照明を使ったオブジェが展示されています。この建物自体も渋い。手動ドア式のエレベータ(ヨーロッパなんかで見かける“鳥かご型のエレベータ”を思わせる)とかあって、建築好きな方なら興味深いと思います。


で、この『デリシャスライティング』が実に面白い本なのです。要するに、インテリア照明を「料理」に見立て、どうせなら家庭料理だって美味しく作りましょうよ、と素人でも簡単にできる様々なレシピやアイディアを提案している書物。


本人いわく「照明の力は、9回裏の大逆転みたいなものがあるんじゃないかと常日頃思っています」とのこと。確かに確かに。豪華な部屋で貧しい照明ってのと、たとえ小さな四畳半でも洒落た照明の部屋を比べたら「勝敗」は歴然ですよね。


とは言え実のところは「間接照明?そりゃオシャレかもしれないけど、暗くてモノがよく見えないんじゃ困るなあ」なんて感じで、引っ越した時についてた天井蛍光灯をそのまま使いっぱなしの人も多いんじゃないでしょうか。カフェとかバーみたいなインテリア照明はあくまで「よそいきのあかり」であって、「ふだん着のあかり」にはちょっとね…みたいな感じで。


また、仮にちょっとインテリアに興味があって「うちもちょっとカフェっぽくしたいんだけど…」なんて思ってても、じゃあどう実践するのか。当方を含め、素人にはこれが難しいんです。だいいち情報がないでしょう。


建築系の専門誌は小難しいし。では書店に山ほどあるインテリア本を見ればわかるかと言えば、そのほとんどは単に「こんな部屋に住みたいわねー…」という願望を一瞬の疑似現実として味わわせてくれる「観光カタログ」にすぎない。


お洒落なブランド照明器具という「ハード」は紹介されていても、それをどう使うのかという「ソフト」の記事がほとんどない。せいぜい「◯◯さんちのリビング」といったケーススタディが掲載されている程度。料理にたとえれば、洒落た料理が写真で紹介されてはいるけれど、作り方や材料についての説明が手に入らない、そういう状態がほとんどではなかろうか。


しかし、どの分野でもそうだけど、実際に自分でやろうと思った時、本当に有益なのは具体的な個々の実例よりも、本質的な方法論やロジックではないかと思います。


この本でも確かに多くの具体例が紹介されています。しかしそこには「なぜそういう光の使い方をするのか」という根拠やロジックが説明されているので、読み進めるうちに「調光器をつけるだけで照明器具が表情を持つ」とか「物体の背後に光源を隠すと、その物体が表情を持つ」とか「同じ明るさなら、明るい光源を1個だけ使うよりも暗めの光源を複数使った方が立体感のある空間になる」といった「法則」がわかってきます。


そしてこの「法則」さえおぼえれば、この部屋だったらこんな光にしよう…なんて計画できる「応用力」が身につく。料理と同じように、冷蔵庫にある材料だけでも手軽に美味しい一皿をつくることができるようになるのではないかと思います。


自分自身の話をすれば(これは自慢ですが、本書の中でちらっとふれられている『照明好きな音楽家』とは実は当方の話でした)貧乏な若い頃からインテリア照明だけは異様に好きで、と言ってもラリックのランプを買うとかそういう事ではなくて、裸電球を家具の背後に仕込んだり蛍光灯をブラックライトに変えてみたりといった程度の事ですが、お金をかけずに試行錯誤を続けてきました。何よりも、6畳一間のワンルームが照明ひとつでなんとも落ち着ける空間になるのが楽しかったのです。


そんな試行錯誤も、必要に迫られて色々と工夫できたという意味では良かったと思いますが。当時もし本書があったら、もっとスマートに効果的な照明が作れたのになあ。と、今も大学の個人研究室では天井のいかにも学校っぽい蛍光灯は使わず、自前で取り付けた白熱灯ランプで過ごし、研究費でミラーボールやらムービングライトやら購入して悦に入っている当方は思うのです。




*本書の公式サイト http://www.deliciouslighting.jp/ でも、照明について様々な知識が得られます。興味ある方はぜひご一読を!