仏旅 第6日

脳的には徹夜のプログラミング・ハイ、身体的には疲労の極致で超ダウナーという二律背反っていうかスピードボールな自分(何を言てうるのだ俺は?)のまま、早朝タクシーでホテルを出る。今日は愉快な仲間たちとの南仏ライフに別れを告げて、最後のライヴをこなしに1人きり別の街に移動だ。


が、しかし、パリに向かうはずの特急列車は、ニームの街を出て1時間ぐらいのところでなぜか速度を落とし始め、やがて停止してしまった。車内放送で何かアナウンスされているが、悲しいかなフランス語のほとんどできない当方には全く事情がわからない。ま、しかし、人間こういう時には全身がアンテナになるもので、列車に何か機械的トラブルが起こったって事はなんとなくわかる。とはいえ、これからパリで別の列車に乗り換えて現地入りしてそのままライヴ、というタイトなスケジュールなのだ今日は。下手するとこのまま本番に間に合わないのか?


ここで、日本で借りてきた国際携帯電話が大活躍。日本でも正直あまり電話をつかわない当方としては「えー?電話?高価いし、そんなのいらないよー…」と気が進まなかったが「いざという時、連絡とれた方が良いでしょ!」と妻に勧められて、面倒くさいなと思いつつ成田空港で借りてきた電話。1人きりで、こういうわけのわからない事態になった心細い場面では、まさに命綱。…ってのは大げさだけども、電話番号をうかがっていたニームの通訳の方に電話して、駅で状況を調べていただく。


結果としては大したトラブルじゃなく、ニーム駅に引き返してちょちょいとメンテナンス後、そのまま再びパリに出発…という事件だったのだが、これで2時間ほどの遅延が発生。1人で全てこなしてたら連絡も取れずどうしようという感じなのだが、今回はパリでイベントのオーガナイザーが乗り継ぎの案内をしてくれる手はずになってたので、携帯メールで彼女と連絡をとりあいつつ、列車の予約変更とか諸々こなす。


日本ではそもそも携帯メール契約していない(迷惑メールの多さと基本料金の高さにムカついて)のだが、こういう時は本当に助かるな。慣れない外国語で状況をグダグダ説明するよりも、文章でやりとりする方が正確だしシンプルに伝わるから。


そんなわけで、ずいぶん遅れてパリに到着。オーガナイザーの案内で駅から駅に移動し、またまた別の特急列車に乗り込んで移動だ。気がついたら朝から何も食べてないが、喉の痛みとアクシデントによる緊張感で食欲もないから、ま、いっか。夕暮れの時間になってようやく今夜のライヴ会場があるリモージュに到着。陶器で有名な街だが、当然そんな名物を愛でる時間などない。


駅に迎えに来てくれたオーガナイザーは、数年前のヨーロッパ・ツアーでも世話になった気の良いおじさん。あいかわらず英語はほとんど全然しゃべれない(たぶん当方のフランス語力と同じ程度)のだが、必要な事だけはなんとなく伝わるものだ。まあ必要な事と言ってもギャラのと宿泊、あとは今夜の段取りぐらいだから不思議でも何でもないが。彼の車でホテルにチェックインしておいてから、さっそく会場入り。


今夜のハコは、中央線沿線にでもありそうな小じんまりとしたライヴハウス。「ウッドストック・ブギー・バ−」という名前からもロックな世界である事は想像がつく。エスタブリッシュでアーティスティックなニームの劇場から来た身には、朝まで爆音と酒と煙草と汗にまみれる店に特有のこの匂いにむしろ懐かしさを感じる。要は「街場の酒場」だ。アートだなんだ言う以前に、週末の楽しみを求めてやってくる客を楽しませ、盛り上げなくてはなるまい。


そしてハコづきエンジニアのたたずまいもなぜか世界共通。標準よりかなり痩せててTシャツ着た長身長髪。リハーサルに必要な程度の英語はしゃべるちょっとシャイな好青年。ベルリンだろうが高円寺だろうが、エンジニアというのはこんなタイプ(と少ない経験から断定)


サウンドチェック完了後、店の裏庭にしつらえたテラスで、スタッフみんなと食事。クスクス、シチュー、サラダ、ワインとビール、食後にはタルト。さすがは食の国である。ロックでアングラなライヴハウスではあっても、まかないごはんのリッチさにかけては日本の楽屋弁当の100倍上をいく。内容的にも、かける時間からいっても。夕暮れ時の高い空で鳥がさえずり、心地よい風が吹く。半端なレストランなんかおよびもつかない、ゆったりした時間を過ごすことができた。


本番は、お客さんの入りを見計らって、予定を1時間もすぎた夜10時頃から開始。1時間半ほどのソロアクトなので緩急取り混ぜ、また実験系の音と享楽的な音も取り混ぜ、言わばDJ的な心境で飽きさせないようなプログラム構成を心がける。もくろみ通り、最後は場内大盛り上がりで嬌声を上げながら踊り狂うオーディエンス。アンコールに答えるハデな曲を用意してなかったので、同じ曲をリプレイして盛り上がりに応える。うーんやっぱりもっと用意しておけば良かった。


終了後は例によって、興奮して話しかけてくるお客さんに応えたり、酒をおごられたり(笑)DJも入ってることだし、このまま朝まで店で飲んだくれて踊り狂いたい雰囲気ではあるが、なにせ体調も絶不調だし、適当なところで機材をまとめてオーガナイザーからトッパライのギャラを受け取り、車でホテルに送ってもらう。ようやっと、仕事なしで眠って良い夜だ。部屋に入ったそのままの角度でベッドに倒れこみ、3秒で昏倒。