仏旅 第4日

WONO2007-04-26



例によって朝食以外、部屋にカンヅメのままプログラミング作業を続ける。午後、劇場担当者と通訳さんが車で迎えに来てくれて、会場まで移動。車窓から見える荘厳な教会に「わあ。歴史を感じますね」なんてコメントしたら「ああ、あれは新しいですよ?18世紀の建物ですから」と返される。なにせ、この街には古代ローマ時代の闘技場やら水道やらがゴロゴロしている。「古い」ってのは、2000年ぐらい前のことをさすのだ。そんな街で、たかだか60年程度の歴史しかないコンピュータを使って音楽をやらかすってのも、なんとも言えない気分である。


今日のハコは「オデオン」という、古い映画館をリノベーションしたライヴハウス。内装の造作やら照明やら、よく見るとなんとも味わい深い建物。『ニュー・シネマ・パラダイス』みたいな。今日はソロセットなので、ラップトップ2台にミキサーやサンプラーなど手早く並べると、もう準備は終わり。出力レベルを調整し、低音のバランスを決めたぐらいでサウンドチェックは終わり。仕込みに時間をかけている分だけ、現場でやるべきことは少ない。というか、現場でやらなければならない事を極力減らすためにこそ、仕込みに時間をかけているとも言える。どのみちライヴなんてものは不確定要素だらけで、その場でいろんな事を処理しなければならないのだから、確定できることだけでも事前に全てクリアしとくのが賢明だと思う。(思いはするのだが…いつも間に合わないから、今回のようにテンパッてしまうのだ)


客席にマイクの姿を見つけたので、昼食休憩を兼ねて2人で近くのバーへ。常連らしきオヤジが1人カウンターでワインをなめてるだけの、ひなびた店だ。マダムにビールを2本頼んで腰を落ち着ける。日本にくる前はカリフォルニアで映画を学んでいたというマイクが「『ブルース・ブラザーズ』最高!」と言うので「ベルーシがその前に出てた『アニマルハウス』は?」とツッコむと「学生時代は真似したよー。『トーガ!トーガ!』って(笑)」(←映画を知らない人には全然わからない話ですみません)とか、昼酒にふさわしいどうでもいい話で盛り上がっていると、港千尋さんから電話。「いまニームの駅についたんだけどー」「あ、じゃあとりあえず合流して飲みませんか?」常に世界中飛び回ってる港さん。南仏の街にふらりと登場しても何の不思議もないのである。今度はパスティスなど頼み、3人でさらにしばし歓談。


そこに田井地マネから電話がかかってきた。「明和電機のリハ、そろそろ始めますけど…」明日の明和電機ライヴは昨日と同じ「テアトル・ド・ニーム」が会場なので、そっちはそっちで現在その仕込みとチェックを行っているのだ。明日はそちらに出演する当方も、当然参加しなければならない。ではちょいと行ってみますか…


久々のリハーサル。演目は長年やってきたものばかりなのだが、あれこれウロおぼえでいけない。曲のキーとか。振り付けとか(DVD『メカトロニカ』ご覧になった方はご存知でしょうが、明和電機のショウには踊り(?)やら動きやら決め事が結構あるので…)。しかし今日は時間がないので、とりあえず段取りの確認で終わり。あとはまた明日だ。


リハが終わったところで、再び港さんと合流。自分のライヴ本番前にちょいと腹ごしらえしておこうと、劇場近辺のレストランを捜索。「ここはカフェか、料理がないな」「こっちはレストランだけど…ちょっと本格的すぎますね」と、野郎2人がビールでも飲みながら軽食つまめる店ってのがなかなか見つからず、少々歩きまわる。最終的に見つけたのは結局また劇場の近くに戻ったあたりの、小さなバール。恵比寿あたりにありそうな小洒落た店構えに、味の方は大丈夫かいな?と不安になるも、これが大当たり。こってりした食事じゃなくて、甘辛いトマトや魚のすり身をのせたフランスパンだの小粒のミートボールだのといった「つまみ系」が充実したタパス系のメニューに大満足。南欧に来た!という充実感を初めて舌に味わう事ができた次第。


それからゆるりと劇場に赴く。そういえば出演の順番も全然きいてなかったので「現場に行ってみたら当方を探してスタッフ右往左往、待たされた観客ブーイングの嵐」なんて最悪のシナリオがチラリと脳裏をかすめないでもなかったが、出番は最後らしく何の問題もなかった。1番手のダンスパフォーマンス謹成祝花さんは昨年のプラハでもご一緒した方。2番手の「アップルヘッド」は着ぐるみ着たシンガーと2人のパフォーマーでロービット味のテクノポップを演奏するキュートでダンサブルなアクト。アキバでオタクなジャポン像というステレオタイプを楽しんで演じている様子であった(しかし着ぐるみで1時間踊り続ける体力…尊敬します)。当方はシンプルにラップトップ+αの演奏。昨夜が映画ネタだったので、今夜はあえて映像は全く使わず音のプレイに徹する。古い曲から新曲までとりまぜて、リスニングからダンス系に持って行く流れを構築。予想以上に盛り上がったので、アンコール対応のダンスチューンを用意しておかなかったのが反省点。というか徹夜の仕込みでそこまでは余裕がなかったんだよね…。


終演後はロビーに出て、お客さんと話したり、買ってくれたCDやレコードにサインしたり。海外ライヴで最も楽しい時間である。コニチワーとかドモアリゴトとか、英語よりむしろ片言の日本語で話しかけてくる人が多いのは、昨今の欧州の日本ブームを反映しているかも?


で、撤収が終わってみると既に深夜0時。さすがにやってるレストランはないか…と思いきや、近くのブラッセリがまだ営業してるのを目ざとく発見。港さん、フランク、オレリアン、マイク、アップルヘッド御一行、今日は偵察に来てたYUKO NEXUS6や岸野さん、秘密博士、エキソニモ…なんだかんだで総勢20名近い謎の軍団となり、ローマ時代の遺跡が見える石畳の路上にテーブルを長々と並べてもらっての深夜野外大宴会が始まる。テーブルのあちこちで乾杯の叫びとジョッキをぶつける音がこだまする。ビールという飲料は正しくこういう場面のためにあるのだ。さすがに少々肌寒くはあったが…