仏旅 第3日

朝1階の食堂に降りると見慣れたメンツ。吉本興業の田井地、工員の小田くん、木村くん、懐かしい古参工員の林くん、そして土佐社長。明和電機チームだ。彼らは昨夜遅くに現地入りしたとのこと。今日はオフ日なので、観光でもしますか!とわいわい楽しそう。羨ましい。そしてもうお一方、「ヒゲの未亡人」こと岸野雄一さんも登場。ニームにいようと東京にいようと、このひと独自の高等遊民的アトモスフェアは不変。


さて今日最初の仕事は、午前中からニーム劇場にて会場セッティングのチェック。「狂った一頁」の上演は今夜だが、いまだ制作は完了していないので落ち着かない。しかし、とりあえず劇場の照明さんや音響さんと、スクリーン位置や演奏環境の設定を行わなければならないのだ。明後日に行われる明和電機ライヴのための打ち合わせも同時進行で行うため、そっちと自分の打ち合わせを行き来もして、さらに落ち着かない。


今回のフェスで当方は今夜の『狂った一頁』に始まって、ソロライヴ、明和電機ライヴと3日連続で別メニューを演る事になっている。どうせ来たからには、これぐらい働く方がやりがいがあって良い。とりあえず明日は別会場でのソロライヴ本番と、この劇場での明和電機リハーサルをかけ持ちする事が決まっている。本番とリハのかけもちなんて大丈夫?と思われるかもしれないが、ここは南仏ニーム。ま、大丈夫でしょ。なんとかなるっしょ。…と、根拠はないけど、なんとなく気楽でいられるのは地中海の空気と陽光のおかげか…


それにしても旅で忘れ物がなかった事があったろうか?今回はトランクを開けてみたらサンプラーの電源アダプターがなかった。まあ欧州220V仕様のものが1個あると便利なのは確かなので(毎度持ち歩く電圧変換トランス、けっこう重いです)音響さんにこの街でいちばん大きい楽器店を教わり、購入。あとはまたホテルに戻って、最後の仕込みを続ける。


今日も昼食抜きで突貫作業を続け、16時すぎタイムアウト。機材を詰めたバッグをかついで、また劇場に向かう。ホールで本番と同じようにスクリーン上映を行いながらのゲネプロ。まだ多少の修正点はあるが、これでほぼ完成形ができあがった。で、結局なにも食べないまま本番に突入。今回は意識的に、「ライヴ性」よりも「映画として面白く観られること」を重視して制作を進めてきた。ステージにプレイヤーがいる事を強調するのではなく、プレイヤーはあくまで黒子に徹し、観客をスクリーンに没入させること。その意図は達成できたと思う。


もう一つ今回、大スクリーン直下で演奏していて強く感じる事ができたのが、アナログ映像のやわらかい質感。今回の上映は16mmフィルムなのだが、光を受けたスクリーンの下にいるだけで、ちょうど月光浴でもしているかのような不思議に安らぐ感じがある事に気づく。DVDなどのデジタル映像とは違った、フィルムを通した光の独特な湿度、温度。デジタルのノイズは目に痛いが、フィルムの傷やノイズは不思議と気にならない。というか、むしろ心地よい。


この上映に続く演目は「ヒゲの未亡人」あいかわらず手のこんだ芸と、作りこんだビデオ映像の完成度(実際、下手なミュージックビデオよりもよくできている)には唸らされた。


それにしても今回のフェスでは、開演時間が夜の9時すぎと遅め。(実際、日の落ちるのが遅いから7時8時じゃ明るすぎて夜のショウって感じにならないのだ)それは良いのだが、問題は終わってからの打上げ。ほとんどのお店は深夜前に閉じてしまうので、夜食をとるのも一苦労なのだ。


で今夜は、ホテル近くのブラッセリーで明和チームが飲んでるというので、オレリアンやYUKO NEXUS6、マイク、そして今夜ちょうど到着した秘密博士らを引き連れて乱入。考えてみたら朝食以来なにも食べていないのだ。既に店のラストオーダーは終わってしまっていたが、明和電機専属通訳の藤田さんが交渉力を発揮、なんとかハムやチーズをせしめる事に成功。ビールとワインで乾杯だ。営業時間は過ぎてしまっているが、店主はいたって鷹揚。しまいにゃ皆に酒をおごってくれた。南の人間はいいかげんで最高だなー。


宴会の後は部屋に戻って、今度は明日のソロライヴの仕込みを始める。『狂った一頁』で手いっぱいで、ソロに関しては準備ゼロのまま来てしまったので。本当に毎日が自転車操業…。