アクロス・ザ・ボーダー

時間はないけど「映像論」の講義で扱った映画ぐらいは本誌でもふれておこう。


今年のテーマは「アクロス・ザ・ボーダー」(もちろんフレッド・フリス『ステップ・アクロス・ザ・ボーダー』へのオマージュで…)。「アート」という行為じたい社会の中でボーダー的存在なのわけだし、もっと言えば「学生」という立場も子どもと大人のボーダー。という事で美大生には親和性の高いテーマかと思い、今年はこのテーマで進める事にしました。


で、先週の第1回はツカミという意味でハラハラドキドキものの『インファナル・アフェア』で開始。


男たちの挽歌』以来、香港アクションを愛してきた人間としては、これをリメイクしてアカデミー賞とった『ディパーテッド』のオスカー、半分はこの映画に返還してほしいと思いますな! アンダーカバー(潜入捜査)映画の系譜の中でも群を抜くこのスリリングさは、なんといっても「正義側と悪党側によるアンダーカバーの同時進行」というアイディアの勝利なのだから。


「ボーダー」という観点からは、ギャングに潜入する主人公の警官トニー・レオンよりも、敵役である警察に潜入したギャング=アンディ・ラウの方が、「悪党なんだけど警官として出世してしまい、悪事を働いてはいるけれどそれに疲れ、正義の側に変わりたくなり、しかしそのためにまた悪事を働かざるをえない…」といった心の振幅が大きい分、興味深い。映画としては、主人公になぜ精神科の女医が惚れるのか?(もちろんトニー・レオンだから)とか、ここぞという場面で笑っちゃうぐらいセンチメンタルな歌謡曲が流れるとか、香港映画ならではのご愛嬌もありますが。


そして今週は『ターミナル』。この映画の舞台は「空港」。さる事情で空港に居座る事を余儀なくされた男の物語です。出かける時には「さあ旅が始まるぞ」という期待と高揚を、また帰ってきた時には「ああ、旅も終わっちまうなあ」という寂しさや再び戻る日常への新たな期待感を与えてくれる場所、それが空港。ある場所から次の場所への通過点にすぎない空港を、そこに居続けなければならない者の目から眺めたら?という設定が秀逸です。限定された状況から笑わせ&泣かせのツボを刺激する脚本の巧みさは、さすがハリウッド映画。もっとも、ある意味ベタなこの映画の展開に飽き足らず、さらに洒落た展開やイマジネーションの飛翔を期待する方には、同工異曲のフランス映画『パリ空港の人々』やドイツ映画『ゲート・トゥ・ヘヴン』の方がお薦めかも。


「ボーダー」に関する映画。実はけっこうあるのです。