監獄実験

今日の「映像論」講義テーマは『es エス』。
実際に行なわれて物議をかもした人体実験をテーマにしたドイツの映画だ。


「映画の前に、心理テストに答えてみてください」と学生に出題。

サークルのコンパでカラオケ大会が始まりました。
しかし、1人だけノリの悪い後輩がいるため、楽しい場がシラケつつあります。怒った先輩が「何とかしろ!」と言い出しました。あなたならどうしますか?


1.後輩に無理やり酒を飲ませ、とにかく歌わせる
2.後輩が目立たないよう、自分が場を盛り上げる
3.先輩に、後輩の性格を説明し、その場をとりなす
4.めんどくさいので、トイレに行くフリをして帰る


元ネタは、町沢静夫教授(立教大学)考案の、会社を舞台とするテストらしいのだが、感情移入しやすいよう学生サークルに話をつくりかえてみた。挙手させたところ大多数は<3>。ほぼ同じくらい多数が<2>。少数の<4>。ほんの少し<1>…という順番だった。


「なるほどなるほど。では答は……






                   上映後にお教えしましょう」


えーーーー!!! という200人のブーイングを受けつつ、映画のはじまりはじまり。






「死体置き場のバイト」とか「薬物実験のバイト」なんて都市伝説、きいたことがあるでしょう。えらくギャラの良いバイトに参加したらそれが大変なことに……ってなパターン。この映画もまさにそんな「金をもらってもやりたくない」バイトの募集から始まる。


モデルになったのは、1971年にスタンフォード大学で行なわれた「監獄実験」。募集に応じて参加した被験者を、くじ引きで囚人と看守に分けて疑似監獄に閉じ込めたら、看守の制圧行為がエスカレートしてえらいことになってしまった、という実話だ。映画では看守役の被験者が実験側の科学者たちまで制圧し始めたり死者が出たり、恐怖の展開になる(もちろん実際の実験ではそうなる前に中止された)


実験の主宰者ジンバルドー博士によるホームページ http://www.prisonexp.org/(英語)で詳細を調べたのだが、いやあ、キてるなあ…


有名なティモシー・リアリーLSD実験とか、ジョン・C・リリーのフローティング・タンク実験とか、ミルグラムアイヒマン実験とか(詳細を知りたい人はそれぞれの名前をタイプして検索でもしてみてください) ミッド・センチュリー時代のアメリカってのが、マッド・サイエンティスト的な人体実験がこれでもかこれでもかこれでもかと行なわれていて、文献を調べていると頭がグラグラしてくるグルーヴィな時代なのは確かだ。


まあこの実験結果は、「力が正義」の銃社会アメリカだから必然的にこうなる、という気もする。イラクアブグレイヴ刑務所での虐待が問題になったのはつい数年前のことだが、先に紹介した監獄実験のサイトに掲載されている写真と、アブグレイヴの写真のそっくりぶりはどうだ。


しかし、違う時代の違う国だったら和気あいあいのまま問題なしに実験が終わるかというと、もちろんそうは思えない。日本だって、戸塚ヨットスクールだのアイ・メンタルスクールだのといった訓育施設や各地の刑務所での暴力事件だの、学校や部活動のシゴキや体罰といったニュース、例をあげればきりがない。


監獄実験の結果が示すのは、 権威、役割、状況の力によって人間の態度はどうにでも変化させられる、ということらしい。もっとも、そのように書いた授業のレジュメを読んだ妻は「というよりも、人間の根本的な性格はサディスティックだってことじゃない? 役割や状況によって許されると、それが表に出てくるってだけで…」と言い放っていたけどね。うーん、MよりSの方がより「人間的」ってことか? 諸賢の意見を問いたいところである。