休息とは何もしないことではない

うるおいを失うことは
幸運を見失うことでもある。
光った個性は
その光を伸ばせ。
じっと耐えている者を
怒らせてはいけない。


これらのフレーズ、いったい何だと思います? ことわざ? 聖書? 教訓カレンダー? 自己啓発セミナーのキーワード? 実はこれがなんと、老舗の靴メーカークラークスの出している小冊子「靴ケア語録」の見出しなんです。


妻が「ちょっと、これ見てよ!!!」と大爆笑しながら差し出したその薄いパンフレットには、たかが靴とあなどれない人生の箴言が満載されていたのでした。(我が妻ながら、こういうの見つけるセンスは本当に天才的だと思う) 


とりあえず最初のページを開くと、これだ。

人は泣きながら産まれてくる。
靴は愛されてから玄関を出る。


大きく出たなーっ。1行目と2行目、文字数は合ってるけどつながりがメチャメチャじゃないですかーっ。この見出しに続く本文は「おろす前の手入れがその靴の寿命を大きく左右する…」といった内容なのです。そりゃあ赤ん坊は生まれた瞬間から泣きまくってるけど、それと靴のケアを結びつけるのは、いささか無理があるのでは…。ま、いいや。次のページ。

人生も、野球も、革も、
表と裏がある。

どわーーーっ。そりゃありますとも、コインだって政治だって日本列島だって、表と裏はありますって。靴に使われる革には表革と裏革がある、って言いたいのはわかりますが。なぜ野球?

油で潤うやつもいて
油で滅びるやつもいる。

なんだ急に「やつ」ってのは。どことなく日活アクション映画主題歌ふうのやさぐれた口調になってきたな。起毛素材に油は厳禁、という話に続くのだけど。「滅びる」ってのは、その、少しばかり、大げさなんではないかと…。

休息とは回復であり
何もしないことではない。

ちょっとでも時間があくとボーッと寝てる当方にとっては、まことに耳が痛い。が、これは人間の話ではない。この後に続く文章は

我が家の玄関に戻ったとき、行動をともにした靴にもぜひ、ねぎらいの声を。ほんのちょっとの時間でよいのです

まさに愛靴家のための座右の言葉ですな! さらに、

友を思いやらないのは
友を信頼しないのと同じだ。


そして

わが友・靴たちには、弱点があります。そこはかばってやりたいものです。信頼のあかしとして。

と続く。もはや靴は道具ではない。人間並みの、いや人間以上の友人なのです。

じょうずに年を重ねる
そういう顔がいい。


あ、そういう顔がいいんだ…? しかし 「いい」って言われても、ね…。

愛は目方で計れないけれど
品質で測ることはできる。


もはや全然、意味がわかりません…


とこのように、靴の手入れ方法を記した単なる説明文と思って読み始めたら驚愕せざるをえない人生の真実が連綿と記されているこの詩集 …いや小冊子は、クラークスの靴を購入するとついてきます。もちろん、普通に靴ケアの具体的な方法も丁寧に記されている、この人生論 …いや…小冊子を手に入れるためだけにでも、ぜひ買ってみてはいかがでしょう? クラークスの靴。