底抜け宇宙

『Space Capades (Ultra Lounge 3) 』
V.A.


世にコンピレーション・アルバムは数あれど、ラウンジ音楽マニアでこれを知らなかったらモグリ!という、まさに決定盤がこの『ウルトラ・ラウンジ』シリーズ。レーベルのサイト(http://www.ultralounge.com/)を見ていただいてもおわかりの通り、極彩色にしてドリーミー&デリシャスな黄金時代のカクテルラウンジ・ハイファイ・サウンドがこれでもかとばかり展開されていて、『奥様は魔女』『ナポレオン・ソロ』といった米国TVムーヴィとボックス通販のムード音楽全集で妄想をはぐくんできた1960年代生まれの涙腺と財布を、とことん刺激してくれる。


そもそも90年代初頭、サンフランシスコのサブカル雑誌『リサーチ』あたりから火がついたモンド音楽ブーム(日本でも『モンド・ミュージック』ってな本が出たりして、一時もりあがりましたね)の流れに乗ってリリースされたのだと思うが、流行の去った今も、気がつきゃCD売場の片隅でしぶとく増殖は続いてきたようだ。カタログ全27タイトルは、どこから手をつけてもかまわないムード音楽の金太郎飴状態。『マンボ・フィ−バー』『ザ・クライム・シーン』『モンド・ハリウッド』…といった「いかにも」なタイトルを見て適当にアタリをつけりゃ良し。品質に当たり外れはほとんど無い。


とは言え当方の一押しはシリーズ3枚目の「スペース・カペーズ」だ。おそらくspaceの「エス」を「escapade」(気まま、突飛、いたずらといった意味)に引っ掛けたタイトルだと思う。邦訳が難しいけど「底抜け宇宙」とか『宇宙珍道中』とかいった、ジェリー・ルイスボブ・ホープあたりがハワイのノリで火星まで旅してしまう映画…みたいな題名に意訳してしまおう。『サタデーナイト・オン・サターン』(←韻を踏んでいる?)だの『ムーン・ムード』だの、もっともらしい曲名が並ぶがナニどれもサイエンス・フィクションなど微塵も感じさせない、甘ったるく素敵に「凡庸」なサウンド


中でも1曲目の『ゲイ・スピリッツ』(デヴィッド・ローズと彼のオーケストラ)を聴いていただきたい。弦楽器のピツィカートとグリッサンドにグロッケンがキラキラ絡む、夢見心地のシャボン玉ワールド。発売当時はさぞや独身者のアパートメントを美女とシャンパンつきのラグジュアリーな宇宙ステーションに変貌させる魔法の香水として重宝されたであろうなとニヤニヤさせられる、珠玉の名曲。