BIG KNOB

WONO2005-03-08



MACKIEという音楽機器会社が、アメリカにある。音楽に携わる人間にとっては有名なブランドだ。


中でもここんちのコンパクト・ミキサーは、安くて丈夫で良い音と3拍子揃っていて、同種製品の中でも実に評判が良い。僕もライヴ用に使用しているが、買ってから何年もたつのにガリ接触不良でツマミとか回すとガリガリ…と出る、あのノイズ)も全然出ない。


適度に大音量で入力してみると、デジタルシンセの細い音が、良い感じにつぶれた太い音になってくれる。憎らしいぐらい丈夫で、何度も何度も落としたりぶつけたりしているが一向に壊れる気配もない。……とまあ、アナログ・ミキサーならではの魅力に満ちているのだ。 そして、安い。


昨年このメーカーの「BIG KNOB」という製品を購入した。


これは音を作るマシンではなく、入ってくる音や出る音を整理し、ボタン1個でその出入りを切り替えたり、ボリュームを変えたりできる便利なハードウェア。直訳すれば「大きなつまみ」という製品名の通り、大きなダイヤルが中央についていて、こいつのスムーズな回転の感触を味わいたいがためだけに無意味に音楽を流してボリュームを上げたり下げたり上げたり下げたり上げたり下げたり「何やってるの!?」と妻に不審そうな声をかけられて我にかえったりして。つまみやダイヤルやボタンに触ってみたくなるオタク男子の心理、よーくわかってらっしゃる。


こんなものなくても音は作れる、という意味では一種の贅沢品かもしれない。しかし、シンセサイザーやキーボードからの楽器音やら、コンピュータ内部で作成中の電子音響やら、講義の準備でプレビューしている映画のDVDやら、レビューを書くために試聴しているCDやら、とにかく雑多な素材を一日のうちに並行して聴き、またそれを、通常はヘッドフォンで聴きながら、サウンドチェックのために大音量にしてみたり、スピーカから鳴らしてみたり、電話が鳴るとスピーカのボリュームを下げたり、比較のために別のヘッドフォンでも聴いてみたり……と、一日中デスクトップにへばりついてあらゆる形で音を扱っている我が身にとっては、考えてみれば最も必要な品物なのだ。


買って大正解。いちいちプラグを抜き差ししたり、配線を考えたりするストレスから解放されたという意味では、実は昨年いちばんのヒット商品かもしれない。自宅スタジオで、しかもDAWベースで作業している同業者には強く推薦しておきたい。


つけ加えるならばマニュアルが、良い。


電気製品の取扱説明書なんて、ふだん目を通しもしない方も多いのではないか(特にミュージシャンという人種にはマニュアルが嫌いな人物が多いような気がする…)。しかし先に述べたコンパクト・ミキサーを買った時にも強く思った事だが、MACKIE社のマニュアルは読んでいて「面白い」のだ。一言でいえば2人称。読み手に話しかけてくるような文体の、妙に気さくなマニュアルだ。


たとえばトラブル・シューティングのQ&A集が、こんな感じ。

Q「電源が入らない」
A「いつものジョークですが:電源コードは接続されてますよね?」

とか。

A2「ビル全体が停電していませんか?その場合は、電力会社に復旧を要請してください!」

とかね。


音が出なくてあせってる客にアメリカン・ジョーク飛ばしてどないすんのや!と目くじら立てる人には向かないかもしれませんが。僕はこの会社のセンス、好きだなー。