最後は明るく


映像論では例年どうも重苦しい作品を扱いがちなのだが、これも例年こころに決めているのは、最終回ぐらい明るくて心がなごむ映画で終わるという俺ルール。ちなみに昨年の最終回映画は『バグダッドカフェ』その前は『スティング』と書けば、なんとなくノリがわかっていただけるだろうか…。


で今年の最終回は『アタック・ナンバーハーフ』。


一時話題になったタイ映画なので既に観ている学生もいるかなとは思ったけど。ゲイのバレーチームが優勝!という嘘のような実話。超予定調和でお約束満載なスポ根コメディである。スポーツなど縁のない当方でも「よっしゃ、そこだ!アタック!」などと熱くなれる、とってもわかりやすい映画。しかし扱っているテーマはなかなか深いものがある。いろんな意味での「ボーダー」を扱ってきたこの授業のシメとして、「性」という最も身近でありながら最も語りにくいボーダーがテーマってのは、ま、良いんじゃないかと思いつつ。


一見チャラチャラした映画なのだが、表現はけっこう、深い。


たとえば、ゲイを「なんだあいつら」と差別するバレーボール界の重鎮が、一方では部下の女性に軽セクハラしてニヤつくオヤジだったりする、といった人物造形が上手い。そこからは、性的マイノリティの問題ってのが実はマイノリティ側の問題ではなくて、「性をステレオタイプ化して何とも思わない」マジョリティ側の問題であるという現実が透けて見えてくるのだ。


ともあれ、講義で観てきた数々の映画から我々が学ぶべきは「閉じた共同体は破綻する」という教訓であった。性的少数者の問題であれ、カルト宗教の問題であれ、犯罪者であれ、狂人であれ、とにかく今そこにあるマイノリティを、少数派であり自分とは違う属性であるという理由だけで「ボーダーの向こう側」に追いやり安堵する精神構造は、結局その共同体の閉鎖性を高める結果しか生まない。


けれども、アートないし表現という仕事こそは、そうした「閉じた共同体」に風穴を開ける「道化」や「異邦人(ストレンジャー)」になり得るし、またならなくてはならないのではないか。と、まあ、美大生たちへの希望と期待をこめて、この映画を最後に選んだのだけれども。とりあえず盛り上がったようで良かった。