理系の文系と文系の理系

WONO2007-01-26



以前から、外科医と内科医は全く違うという気はしていた。


内科は「で、いつ頃からですか、その痛みは?」なんて会話から始まって「ではこの薬を処方して様子をみましょう…」とあくまで紳士的でソフトな印象。一方外科は、手袋した両手を上に向けて「オーケイ、ガイズ!レッツスタート!」なんつってBGMにイタリア・オペラなんか流しながら「山ちゃん今日の晩メシ一緒にどう?…はい摘出終了」とか会話しながらスパスパ身体切ってくイメージ。いやあくまでイメージですよこれは。(『ER』とか外国の医療ドラマに影響されすぎか?)


今朝、息子を連れて病院に行くと、部分麻酔での手術を昨日受けた妻が「今まで内科系ばかりかかってたけど、甘やかされてた。やっぱり外科は全然ノリが違うわ…」と呆然としていた。手術中、自分の身体がほとんど「モノ」のようにラフに扱われた事に憤っていたのである。


血管に刺された管の位置がどうもおかしいので「痛い痛い」と声を上げると「あー、ひっかかってるな、じゃもっと切っておこう」っつってさらにズバッと切り裂かれたとか。首の静脈に挿管するはずが動脈を傷つけたらしく血がだらだら出てしまい(見えないが感覚としてかなり出血してる感じ)「あ、…これまずいな…」とか言っていきなり首を両手で締め始めた(圧迫止血か?)ので、息ができなくなって死ぬかと思ったとか(以下略)ずいぶんと野郎系の力技だったらしい。


妻は「医療過誤で訴訟する人の気持ちがわかったよ!!」と怒っていた。だがそもそも外科手術とはそういうものなのかもしれない。「人間扱い」してたら仕事にならないのではないか。クールに、ドライに、スピーディに、目の前の血肉をどんどん処理していかないと、その「人間」の命を救うという本来の目的が達成できないのかもしれない。


そういうわけで、いわゆる「理系」のエリートである医療の世界でも、内科や神経系などは「理系内文系」、外科は「理系中の理系」…というか体育会系という印象を、なんとなく持った次第です。


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さて今日は夕方からベビーシッターさんを頼んでいるので、いったん息子を病院から連れ帰りシッターさんに預けて、再び頼まれた着替えなど抱えて病院へ。その足ですぐ五反田の東京デザインセンターへ向かう。


今日は先日打ち合わせ済みの『LIGHT de NIGHT』出演だ。到着するとちょうどランスルーが始まるところ。が、なんと持参したDVD-Rにエラー!。日頃から学生たちには「作成したメディアは必ずプレイヤーで再生確認してから人の渡せ」と指導しているにもかかわらず。昨夜はDVDを焼くのに明け方までかかっちまい、眠気のあまり挙動を確認できてなかったという初歩的ミスだ。南無三!


なあに都心に住んでるのはこんな時のリスク回避のためさ!と内心の動揺を虚勢で隠しつつ、タクシー飛ばして渋東にとんぼ帰り。MacBookを引っつかんで会場に引き返す。映像オペレータにお願いして、パソコンからムービーデータを直出しする方式で、ここは乗り切ることにした。


にしてもこのイベント、照明だ建築だデザインだといった実業のプロたちが企画しているだけあって、映像も演出もまるでTV番組のようにきっちり作りこまれている。さらに10分間をビタ1秒でもはみ出したら許さん!と言わんばかりに、時間切れ1分前からカウントダウン、10分目にはジリジリとベルが鳴り響く趣向。スピーチの中身を面白くするのと、時間ちょうどでオチつけて終わらせるのと、両方に神経を使わなければならないのだから、普通の講演などの2倍たいへんな理屈である。


当方は、まぁ直前に内容考えれば良いやと軽く考えていたものの、昨日今日の入院騒ぎに加えて直前のDVDエラー騒ぎなどあって、用意した映像素材以外は全くの白紙状態。使う映像に合わせて、どう話の持ってきかたを組み立てるか?「Think, Think, Think...」と『ダイ・ハード』のブルース・ウィリスよろしく今後の段取りを必死に考える俺(昨日もこんな場面があったような…?)


さらに、今期最後の演し物という事もあってか多摩美の教え子もたくさん遊びに来てくれていた。日頃「全員、1分間ちょうどでスピーチせよ!」などと非情な指令を課し続けてきた自称・鬼軍曹としては、最後の最後で模範演技を見せなければならないというプレッシャーが追い打ちをかける。まるで何かの罰ゲームのような心境…。


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しかしまあ終わってみればなんとかなった。他のスピーカーの皆様も、さすがプロフェッショナル。美麗なスライドショーで自作を解説する方、パワーポイント使って学会発表さながらの報告をまとめる方、果てはあえて照明を落とし肉声で朗読を披露する方…様々の専門領域の芸談がぴたりぴたりと10分ごとに展開していく構成が楽しかった。


誰だって、自分と全く無関係な話を90分も聞かされたら眠くなってしまうだろうけど、10分ならどんな話であれとりあえず聞く気になるよね。聞き終えて「もっと知りたい…」と刺激された知的好奇心を、そのまま家まで持ち帰ることができる。なかなか上手い仕組みだと思います。


いっそ大学の講義もこのノリで1コマ10分にしたら学生も教員も緊張感が高まって良いのではないか?まず遅刻がなくなる(10分遅刻すると講義は終わってる)。展開が速いから携帯メールなんかチェックしてるともう来週の課題に話が移ってたりして。もちろん教員も時間厳守。10分ちょうどで話をまとめないとベルが鳴って強制終了だ。だがそうなると1日40時限ぐらいになるから時間割がとんでもなく見づらそうだとか、「今日オレ1限と23限と35限が授業なんだよね」なんつーめちゃめちゃ非効率的な学生生活が予想されるとか、そもそも教室移動のため10分おきにベルが鳴っては学生も教員も「走れーッ!」と借り物競走みたいにキャンパス内を右往左往全力疾走するスラップスティックな絵ヅラが浮かぶといったあまりにも面白すぎる理由で廃案(以上0.05秒)


しかし今回の主催者のような建築、内装、照明などの世界ってのも、「理系」だか「文系」だか良い意味でよくわからない領域ですね。企画だプレゼンだ意匠だ歴史だ文化だと基本的には「文系」の仕事なのだろうが、同時に物理法則だ構造計算だ配線だ施工だと「理系」脳が必須の世界。そして皆さんフットワークが軽く、礼儀正しく、大酒飲みなのに早起き。冒頭の医療の話になぞらえて言えば「文系の理系」…というか体育会系という印象を持った次第です。


(写真はおどけるオーガナイザー東海林さんと無意味にカッコつけてる当方。お笑いコンビっぽいな…。昨日のライヴと同じ学生が撮ってくれました)