「全景」展

WONO2006-12-23


かねてから誰もが絶賛してる大竹伸郎『全景』展。「これは絶対行くべきです!」と力をこめて椹木野衣さんからチケットをいただいたので、会期終了直前あわてて現代美術館へ行く。


大竹伸郎という名前を初めて知ったのは87年の雑誌『銀星倶楽部 "ノイズ" 特集号』で、不勉強な当方は「へえこの人ラッセル・ミルズなんかと一緒に演奏してるのか…テープコラージュのノイズミュージシャンって感じ?」と、既に高名な美術家であった事などまるで気づかなかった。その後いろいろな媒体で作品を目にするにつけ、なるほどコラージュ・ミュージックとカットアップ・アートか、やってること一貫してるわな、と妙に納得。「サンプリング原理主義者」を標榜し、自分も稚拙な音響コラージュなどを試みていた当方にとって、ステファヌ・マラルメリチャード・ハミルトンウィリアム・バロウズジョン・ゾーン、クリスチャン・マークレイ…と延々続く「サンプリング魂(だましい)選手権」要チェック人物リストの筆頭に銘記されていったのであった。


そんな事を思い出しながらたどり着いた美術館は、噂通りのものすごい物量。その数およそ2000点!1人の人間の作品と思えないほど幅広い画風、違った手法、あらゆる素材の作品が壁一面に延々と続く展示は、ちょっと気が弱い人間ならアテられて酔っぱらい嘔吐し高熱を出しかねないエネルギーの奔流。これはまさしく火薬庫である。息子と2人で行ったので一つ一つの作品すべてをじっくり見つめる余裕は全くなかったが、逆に文字通り展示の『全景』を、感覚として身体にしみこませたまま会場を走破する事ができたようにも思える。


ちなみに息子は大竹氏のバンド「19」など音楽活動を紹介する小さなブースに居座って動きたがらなかった。ごく小さな音で流れていたサウンドと小さなモニターの見づらいライヴ映像に、妙に心惹かれたようである。あとは「網膜」シリーズ。岡本太郎展に出かけた時も感じたが、子どもが何にどう反応するかは大人にとってもなかなか参考になる。それまで騒いで走り回っていたのが急に立ち止まってじーっと眺めたりするので、一緒にかがみこんでその視線の意味を想像してみたりしてね。


しかし、このところ新譜の制作に関して「音響=サンプリング=具象性」と「音楽=記号的な音の組織化=抽象性」との間でいろいろ迷っていたが、会場の物理的スペースからダダ漏れして溢れ出る強力な衝動、膨大な物量、過剰な混沌によって体験者に「もおーよくわかんないけどすごいッ!」と言わしめるほかないこの展示に、大いなる助言をいただいた気がした。まあ、ひとことで言えば「とにかく作れ!作り続けろ!」ということだな。