刷り込み


で、ここのところ息子がいちばん気に入ってるのがアンパンマンの電子キーボードだ。


そもそも幼児というものはボタンを押すのが好きなようで、電話や電卓やコンピュータなど手当たり次第にボタンやキーを押したがる。当方の仕事場もキーボード、シンセや機材など、つまみやボタンが並んでピコピコ光るものが並んでいるので、彼にとってはおもちゃ箱のようなものだ。曲づくりしていて、あれ?急に音色が変わった?と思うと、いつのまにか忍びよっていた息子が勝手にシンセのつまみをいじってプログラムをチェンジしてたりするから油断できない。


そんな彼にはキーボードがいいんじゃない、と誕生日に妻が選んだプレゼントの一つが、このキーボード。こいつがなんとも息子のツボにはまったようで、一日じゅう飽きずに自動デモ演奏のボタンを押し続けている。持ち運びハンドルがついているので、大音量で「アンパンマンのマーチ」を鳴らしながら家の中をうろつき回っている様子は、ラジカセ肩にかついでヒップホップを爆音で流しながらストリートを闊歩するブラザーを連想させる(こんなこんな感じ…)うとうと寝てるときに遠くから「アンパンマンのマーチ」が近づいてきてきて耳元でバリバリ鳴り響く。おいおいかんべんしてくれよと目をあけると嬉しそうな息子の顔とアンパンマンのキーボード。という今日このごろです。


閑話休題


今ごろになってベストセラー『食品の裏側』を読んだ。我々が日頃口にしてる食品に、いかに大量の添加物が使われているか…という内容だけど、それを告発=糾弾しようとするのではなく、必要悪として認めたうえで、しかしそれを食べるかどうか判断するための知識は持った方が良い。とする筆者のニュートラルなスタンスに好感を持った。


この本で面白いなと思ったのは、育児経験のある著者が、子どもの舌にはまず素朴な味、素材そのものの味、手のかかった味をおぼえさせるべきではないか…と、いわゆる食育を説くくだり。添加物による人工的で刺激の強い旨味や甘味に舌が慣れてしまうのはたいへん危険なことだ(それが最終的に肥満や高血圧、糖尿病のような生活習慣病の下地になる)という指摘にはうなずけるものがある。


と同時に、「音」についても「添加物バリバリの、人工的な味」と「素朴な素材の味」の違いというのがあるのではないかなとも思った。


頭でかんがえたわけではないけど、なんとなく息子には生の音、つまり「モノがそこで振動している音」にふれさせたいなと思って、太鼓とか鉄琴とか与えてきた。ときどきガットギターを取り出して弦を弾かせると、飽きることなくジャランジャランと嬉しそうにひっかき続けているから、やはり生の音ってのはそれなりの魅力があるのだと思う。うちには生ピアノはないので電子ピアノというフェイクしか触らせられないのが残念だが、それでも当方の膝に乗って鍵盤をでたらめに叩くのは好きなようだ。



アンパンマンのキーボード」は、おもちゃとしては最高に楽しいようなのだが、こう言っちゃなんだが音がチープすぎる。続けて聞いてると耳が痛くなるような、歪んだ音。いやあわてて付け加えるが、チープな音だって音楽には有効に使える。いや当方、どちらかと言えば積極的にそういう音を作品に使ってきた。ただそれは「あえて合成調味料入れるのも良いよね」的な、ヒネリとしての使い方。どうせ電子音を聞かせるならモーグとかプロフィットとかの図太い「アナログ回路の音」聞かせてやりたいなあ。言わば電子音の英才教育!


などと力んでみても、耳に入れてるのは実は「楽器の音」じゃなくて「スピーカーの振動する音」なんだけどね。ではスピーカーの「良い音」ってのが何か、って話題になると、これはもうオーディオマニア喧々諤々の果てしない世界になりそうなので……ま、あまり深入りしない方が良さそうな…。


ともあれ、親の心 子知らず。
今日も早朝からエンドレスに鳴り続ける「アンパンマンのマーチ」で、叩き起こされるのであった…