最後の映画と一期一会なライヴ


今日は「映像論」最終講義。


初回にレジュメで上映映画をすべて告知しているこの授業だが、最終回だけは予告なしで「おまけ」的に1本の映画を観せることにしている。「おまけ」なんだから、ま、固いこと抜きで幸福感に浸れるファンタジーを、というわけで今年のチョイスは『バグダット・カフェ』。ちなみに昨年は『スティング』。要するにそういう種類のハッピーかつハートウォーミングな映画で、連続講義をしめくくりたいわけです。


以前は、たとえば映像と音をテーマにした授業で最終回がデレク・ジャーマンの『ブルー』ノーカット完全上映とかハードコアな事やってましたが(念のため申し上げておくと、これは75分間、青一色がスクリーンに投影され続けるという掟破りの"映画")最後に大ネタ持ってくるよりは、最後でホッと息が抜けるぐらいの方が、講義する側も受ける側も気持ちいいんじゃないかと考えなおした。予定調和と笑わば笑え。


しかし講義の終わりを告げたら学生の皆さんから盛大な拍手をいただいてしまったのには、ちょっと驚いた。というか照れるね。ショウというか番組のように演出しながら進めてきたこちらの意図を十分くみ取ってもらえた証拠と、嬉しく解釈させていただく。




さて、続いて「演奏論ゼミ」。


こちらも前期最終段階ということで、公開演奏会を開催。しかし使用する教室の都合で、搬入から開場までたったの90分しかない!これだけの時間で、毎週使っている単なる教室を、ライヴスペースという祝祭の場にしつらえなければならないのだ。ミキサーを設置しPAスピーカを接続しマイク、配線、楽器サウンドチェック…学生らにバンバン仕事を振りつつ怒濤の速度で準備を進めたが、照明の吊り込みまでは間に合わず。無念ながら日頃の照明セッティングのまま開始となった(日頃から意味なくスポットライト使いながら授業やってて良かった)


授業はワークショップ形式で、即興演奏の要素を細かく分解しながら様々な「課題」を与えて演習=演奏する方法で進めてきたが、今日はそういった「縛り」を一切捨て、完全に自由に、打ち合わせ無しで、出会いがしらのカンだけで合奏するという、本来の意味での「即興演奏」。言ってみれば、蹴りやら突きやら連続技やら様々な「型」を稽古した後で実際に対戦試合を行なうという、格闘技のトレーニングと同じ方式ですな。一触即発。一期一会。オブザーバーとしては、「学生」とか「アマチュア」とか関係ない、即興演奏ならではの濃密な空気をたっぷり吸い込ませてもらいました。(と言いつつ、本音はミキサー卓の操作でてんやわんやでしたが)


もちろん終了後は打ち上げ。居酒屋で、みんな「学校に何か教わりにきた"学生さん"」なんかじゃない、ステージを終えたばかりの「いっぱしのミュージシャン」な顔になってたのが最高だった。「アンケートこっち回して」「やった!俺の演奏ほめてくれてる、このお客さん」「で、次のライヴはいつ演る?」「じゃ芸祭の時にさ、即興ライヴ出演しようぜ」…なんて感じで、話がどんどんふくらんでいくあたりも含めて、実に正しい打ち上げである。


しかし酔っぱらった学生が真顔で質問してくるのは困ったものだ。
「センセイさー、このゼミ趣味でやってるでしょ?」
「え?おいおい何を言い出すんデスカ(棒読み)」
「だってこのゼミ、正式名称“デザイン論ゼミ”なのにさ、全然デザインと関係ないじゃないスか!」
「いや、それはですね…その…身体と音をリアルタイムにデザインするという……いいから飲め!ホラ!」
正しい打ち上げってのも、楽じゃない。