沈黙のエチュード

今日の「演奏論ゼミ」は、耳のフォーカスを絞るレッスン。


まずは2人の学生に楽器を鳴らしながら部屋の中を移動してもらい、残りの全員は目を閉じてそれに耳をすましながら音のする方向を指差し続ける…ってのがウォーミングアップ。(これはマリー・シェイファーのパクリです)


次は、天気が良いので外に出て、キャンパス内の最も遠い地点まで歩き、そこから教室に帰ってくる。帰りついてから、聴こえた音について細かく項目を設けたアンケートを記入させ、発表し合う。人によってずいぶん聴こえた音が違うのが最大の眼目。異質な耳、異質なアイディアこそが常に面白い。


3番目のレッスンは「沈黙の練習」。音をまったく出さずに立ち上がる、とか、音をまったく出さずに隣の人に1枚の紙を手渡す、といった実践をいくつか。


音を出さないように身体を制御しようとする意識は、そのまま耳にフィードバックする。それまで聴こえなかった極端に小さい音が急に聴こえはじめるのが面白い。ボリュームダイヤルを極端に大きく回した状態。微生物を顕微鏡で拡大してみるような状態というか(ケージに、コンタクトマイクを使って身の回りの音を増幅しPAする作品があったのを思い出す)。


最後は、思いつきで、この緊張感あふれる「意識的な沈黙」と、弛緩した「単に何も音を出さない状態」とを、合図に応じて瞬時に切り替える実験。これがたいへん面白かった。1人でやってもさほどその違いはわからないかもしれないが、十数人で同時にやると、明らかに「これは意図的な"沈黙"でしかありえない」という感じの、張りつめた空気がピーンと流れる。


言ってみれば、これがこのクラスでの初「演奏」ということになるか。まだ先は長い。