幸いですか?

WONO2006-02-24


「辛い」という字と「幸い」という字は似ている。という事実から何か人生論めいた教訓を引き出す気はゼロですんで、そこんとこよろしく。今夜は終演時、有馬くんの「本日はありがとうございました… 楽しんでいただけたなら幸いです」という妙に世慣れたMCが印象的でした(笑)。幸いでしたか、それとも辛いでしたか? 居合わせた観客の皆様。


この1年ほど「レクリプ再結成(解散してないけど)しよう」などと3人で話したりしてきたわりに、何も進まずズルズル時間だけがたち続け、どうも我々が陥りがちな「こんな曲つくろう」「こんなライヴにしよう」という「コンセプトありき」な発想はもうやめて、何も考えずとにかく集まって音を出してみよう、そこから何か次のプロセスへのヒントが見つかるんじゃないか、という言わば見切り発車で決めたライヴ。ライヴというよりほとんど公開リハーサルのような気持ちで、今回は企画した。


リハーサルと言っても、スタジオ入って3人だけで音を出す、というのと、観客がいる緊張感の中で音を出す、というのは全く意味も意識も異なるわけで、うーんうまく言えないけど「できあがった音楽をお聴きいただく」というよりも「なんだかわからないけど、わからないことが起こりつつある現場」「なにかが生まれつつある現場」「音を出す3者の関係性」みたいなものを提示しようと、ま、そういう実験だったわけだ。あえて2チャンネル・ステレオのPAシステムを使わず、3者それぞれの足下から小型スピーカで音を出すことにしたのも、そうした意図を強調する理由から。


で、久しぶりの合奏はやはり相当に刺激的だった。当方はサンプリングネタ勝負に終わったきらいもあるが、いきなりマイクを持ってその場で音の採集を始める有馬くんのショーマンシップとか、ありかわらずセンス良い素材チョイスと絶妙な「間合い」の前林さんの芸風とか、このユニットを始めた時からのキャラの違いが、今もそれぞれの方向に拡散し続けているなぁという点が再確認できたのが個人的な収穫。要するに、このメンバーでまた演りたくなったということだ。


終演後は、そのまま階下のカフェ・スペースでビールなど飲みながらお客さんと談笑するという打ち上げ状態になる。こういうのって、ちょっと日本離れした雰囲気。わずかな経験からの連想ではあるが、欧米でのギグ後のパーティを思わせる、いい雰囲気。ミュージシャンはミュージシャン、観客は観客、と変に区別/分離する「コンサート」というシステムよりも、こんなふうにミュージシャンも観客も地続きな感じって、はるかに健全な気がする。これはもちろん、打ち上げだけの話ではなくて。「ライヴ」というものの考え方じたいに関わる話だ。


いわゆる伝統的なクラシックのコンサートにしても、メジャーなポップスのコンサートにしても、演奏者を特権的な「スター」に仕立てあげることで「ありがたみ」をかもし出すという点で、共通しているように思える。そうやって商品価値をつり上げる仕組み、そのように「階級」を設けて商売にする事とはかけ離れたところに、たとえばコンピュータのように「民主的な道具」で音楽をやることの意味があるのではないかという気がする。たまたま今夜は観客としてそこに座っている「彼(女)」と、たまたま演奏している「私」が、立場をとりかえたところで本質的には問題ないのではないか。逆に言えば、演奏者もまた「たまたま演奏を行なっている“観客”」としてその場の音を聴いている人間にすぎないのではないか。という気分。


まぁそんな理屈はともかく、椹木野衣さん、佐々木成明さん、アイソ・ナーダ(カスガ+クラガキ)、中村理恵子さん、古館徹夫さんなど、創設当時からこのバンドを知っている人たちと懇談という、ちょっと同窓会な場面もあったり。記録係のバラさんa.k.a.EVALAくんにサインウェーヴオーケストラの方を紹介されたり。多摩美ゼミ生のmolくんが連れてきた音楽やってる若い衆と話しこんだり。偶然、次の展示の仕込みに伊東篤宏さんが登場したり。イイ感じに賑やかな夜でした。


写真は molくんの撮影