Think Small

WONO2005-03-30


幼い頃から「おこづかいを貯められる子」が羨ましかった。当方はと言えば小銭が手に入るとすぐに走って駄菓子屋へ。変なガムくじとか、舌が真っ赤になる飴とか、わけのわからないものをちょろちょろと買ってはそれを使い果たしてしまう。


貯金して大物を買う、という発想がそもそもないのだ。お年玉などもらおうものなら大変だ。大金が入ったからといって「大物」を買うわけでもなく、あいかわらず安い駄菓子を、しかし何種類も大量に買い込んでは悦に入るという子どもであった。


「三つ子の魂百まで」と言うが、音楽を商売にするようになっても実はこの性格、一向に治らない。


さすがにコンピュータだのインターフェイスだのといったメイン機材にこそ出費は惜しまぬものの、シンセやキーボードなどの楽器となると、なぜかチープでコンパクトなブツにばかり目が行ってしまうのだ。デスクまわりを眺めても「SH32」「SH101」「SP-303」といった、実勢5万円以下の製品ばかりが並ぶ。(そう言えば先日書いた「BIG KNOB」も4万円台の製品だ)


そんな「3C楽器」(と今ネーミング決定。チープでコンパクトでチャーミングな機材のことだ)の決定版として昨年購入し、録音にもライヴにも重宝しているのが、ALESIS社の「MICRON」。ルックス、音、価格の3拍子そろったカワイイ奴だ。


もともと自動車なんかでも90年代後半以降の、ベジェ曲線が透けて見えるような「いかにもCAD!」ってデザインが苦手である。フランス車で言えばプジョーは306まで、シトロエンエグザンティアまでが好きだ。BMWで言えばキドニーグリルが小さい頃まで… と語っていると果てしなくエンスーオヤジに近づくのでやめとこう…。そう言えばマッキントッシュMAC PLUS)が最初に登場した時も、あの角張ったルックスにシビれたなー。


そんな直角フェチ(嘘)の当方としては、MICRONのこの直角感&アルミ色が実に新鮮だ。さわると光るモジュレーション・ホイールとか、叩いてテンポを指定してやればそれに合わせて蛍のようにホワーホワーと光り続けるLEDランプなんてのも、カワイイ。


これを買ったのは実はブラックベルベッツのライヴのためだった。ベーシストのいないこのバンドで当方は、通常のオルガン以外に鍵盤ベースも担当しているのだが、なかなか良い品に巡り会わず試行錯誤を続けていた。


最初はエーストーン。昭和なオルガン独特の柔らかく太いベース音は絶品でしたが、いかんせん重い。なにせボディが木と鉄です。ベースだけのためにこれを運び続けていたら腰と背骨に取り返しのつかないダメージを受けそうな気がして断念。(そういえば細川玄さんのレコーディングでローズのスーツケースピアノを運んだ事があるが、あまりの重さにリハーサル途中から気分が悪くなりその夜から熱を出して寝込んだという経験があったなあ)


次に使ってみたのは、先に挙げたコンパクトなシンセSH101だが、正真正銘のアナログ機材だけあって、発熱のせいか電圧のせいかわからないけれどピッチが狂いまくり。バンドの屋台骨たるベースラインとしてライヴで使うには不安があって、却下となった。


お次はこれも先に挙げたSH32。これは鍵盤なしの機材なので、別の小型MIDI鍵盤を持ち込んでそれと接続して使用してみた。音は太くて良いんだけど、ちょっとしたライヴでいちいち複数の機材をMIDI結線したりするのが面倒。というのと、レギュラー鍵盤のオルガンとミニ鍵盤のベースを両手で弾くのは、やはりどうも難しい。


というわけで「小型」「レビュラー鍵盤」「太いベース音」という検索条件で街をスクロールしていた時、渋谷でふと入った楽器店「鍵盤堂」で、店頭に置かれたこのMICRONに目が止まった。


昔から「山椒は小粒でもピリリと辛い」とか「一寸の虫にも五分の魂」とか、小さいものの良さをアピールすることわざ、結構あるよね。


また車の話をするけれども、フォルクスワーゲンには広告史に残る「小さいことはいいことだ(Think Small )」というキャンペーンがある。(こちらに紹介されてます)


小さな製品は単に大きな製品へのアンチなのではない。小さな製品は、大きなモノや企業、何であれ大きければ良いと考えてしまう我々の「常識」に風穴を開けてくれる。そこが魅力的なのだということを、この広告は教えてくれる。


というわけで、バンバンお金を積み上げて事業を拡大し世間を騒がす「ビッグな人たち」のニュースがやたら目立つこの御時世だからこそ、あえて、Think Small。なんて、デスク脇に置いたMICRONを眺めながら思ったりするのだった。