私の耳は都市の耳

というのは今は亡き如月小春さんの本のタイトル。もう売ってませんが見かけたらぜひご一読を。80年代半ばの東京にタイムスリップできます。(岡崎京子東京ガールズブラボー』も同じ理由でおすすめ)


NY市の2012年オリンピック誘致CMが面白い。


http://www.nyc2012.com/media/hi/qt/bugler_120.mov


早朝から夜明けまで、NYの一日を描いた2分間のフィルム。公園で踊るヒップホップくん、サックス吹きの兄ちゃん、シンフォニーオーケストラ、ジャズクラブ、野球場のオルガン、ライヴハウスのパンクバンドまで、それぞれが奏でるメロディを巧妙につなぎ合わせ、一種の音楽空間として都市の風景を追っていくドキュメンタリー風のモノクロ映像だ。やはりモノクロで撮られたウッディ・アレンの「マンハッタン」など、この街を描いた多くの映画を思い出させる、ちょっとノスタルジックでセンチメンタルな作品に仕上がっている。


CM音楽を手がけている身として感心したのは、音楽以外にも汽笛、鐘、ホイッスル、自動車、列車、馬車、シグナル音といった都市のノイズを、さりげなく音程を合わせて音楽の一部に使うテクニック。ギミックとして面白いのではない。ふだんはバラバラな出来事や単なる環境として見過ごされているディティールを、「街」という共同体を構成する一つ一つの大事な要素と捉えている制作者の視点が(それはストリートミュージシャンから交響楽団までNY市民として対等に愛している温かな目線でもある)こうした音の使い方から伝わってくるところが、気に入ったのだ。


理屈による説得ではなく、「ええやろ?この街」と肩に手を置くようなこうしたフィルムが、果たしてオリンピックの誘致広告として有効かどうかは知らないが、観光客へのアピールとして上出来なのではないか。少なくとも僕は、これを観てNYに行ってみたくなった。