世界初の電子楽器

テトリスの落ちてくる断片を放っておいたらいよいよ画面の上まで積み上がってきてああどうしよう…と心拍数が上がってくる時、のような気持ちになってまいりました。本日〆切の「現代のエスプリ」原稿、いまだ脱稿せず。まずは「モーグ」原稿の校正を片付けてしまおう。


アメリカ人のケーヒル氏がつくった史上初の電子楽器「テルハーモニウム」について、制作年代を調べる。


しかし、この楽器(というより巨大な『装置』なのだが)何せ100年以上前のモノなので、諸説入り乱れて正確な年が特定できない。例によってネット検索に検索を重ね、最終的にはアメリカ合衆国特許庁の特許出願資料でなんとこの楽器の回路設計図を発見。1897年4月6日と明記されている。これなら間違いない証拠になるだろう。それにしても合衆国の情報公開、徹底しているなあ。(明治30年の発明品を日本の官庁のサイトから見つけ出す事ができるだろうか?)


ともあれ、このテルハーモニウムの奇天烈さには圧倒される。重さ200トン。ビル1軒ほどの大きさ。ダイナモ(自転車のタイヤにつけるあの発電機ね)の巨大なヤツを大量につなげて電波を発生させ、それを合成して音色をつくる…という大掛かりな仕組み。これは楽器というより何だろう「施設」? 音を出す発電所、みたいなものか?


さてここで問題。そうやって作った電子音をケーヒルさん、どうやって鳴らしたと思います?


「電気の音ならスピーカーから出したんだろ」だって? ブー(はずれ)。1897年ですぜ。真空管1906年に発明されるまで、電気ってのは増幅する事ができなかった。つまり「アンプ」ってものがなかった。そしてスピーカーってのは、もちろんアンプ無しでは鳴らないんですね。


スピーカ−の原理自体は1877年に特許がとられているけれど、そういうわけで当時はまだ机上の空論だったわけ。ちなみに、現在僕らの使っているダイナミック型スピーカーの発明されたのは1925年(この発明者がケロッグ博士だって知ってた? そう、あのコーンフレークを発明した奇人ケロッグ。音や楽器の歴史を調べていると、ずいぶん色々な面白い事実を掘り当てるのですが…その話はまたいずれ)。


スピーカーなしでこの楽器の音を聴かせるためにケーヒル氏の使ったのは、なんと「電話」だった。確かに、1876年に発明された電話は当時の最先端音響テクノロジー。これを使わない手はない。こうしてテルハーモニウムの演奏は、各家庭の電話で聴かれたという。今日のストリーミング、インターネットラジオみたいなもんですか。なにしろ電話、それも100年前の電話だから、音は相当貧弱なものだったのではないかと推察するけれど、とにかくそこまでしてでも電気で音を出したかったのね…うんうん、わかるわかる、と思わずこの発明家の肩に手を回したくなります。


そしてもちろん、この莫大な費用や手間のかかる「楽器」は、皆さんのほとんどがこの記事を読むまでその存在を知らなかった(でしょ?)という事実が証明している通り、数年後には歴史の闇に消えていったのですね…。