立ち止まらないで歩いて下さい

椹木野衣さんから、新著『戦争と万博』の出版記念トーク&ライヴイベントに出演のお誘いメール。「裏テーマとして、ベトナム戦争の泥沼化や大阪万博前夜に同じ青山の草月会館で開かれた一連のプレ万博前衛イベントを念頭に入れています」とのこと。

万国博覧会
「人類の進歩と調和」のテーマの下、1970年(開催期間3月15日−9月13日)、大阪千里丘陵を会場に開催された。(中略) 科学的進歩へのオプティミスティックな信頼感が基調をなし、モノレール、動く歩道、通信システムなどの新しい交通・流通システムが提案された会場はさながら未来都市の実験場と化した。(後略)
(DNPアーカイヴ「現代美術用語辞典」より)

その年 (1969年・引用者註) の二月二八日、フォークゲリラたちの音楽による反戦行動が、新宿西口広場と銀座数寄屋橋で同時にはじまった。(中略)その後の七月二六日までの行動で、それまではただ人が通り過ぎてゆくだけの場所、大量の人間をただ吐き出し続けるだけの吐人空間であったところに、次第に人々が立ちどまりはじめるようになった。(中略) ……立ち止まらないで歩いて下さい……このアナウンスはその翌年に開かれた大阪万博会場でのそれを思い起こさせる。実際、万博会場の様子を報じる昭和四五年のニュース映像のなかでこれとそっくり同じアナウンスを耳にすることができる。立ち止まらないで歩いて下さい……それは何のために? 無論それは、経済の繁栄と豊かな生活のためにであり、人類の退屈な進歩と調和のためにであったろうが、この高度成長時代のアナウンスメントは一見ありふれた言葉ではあっても、実はまぎれもなき国家の号令であった。地下広場と万博会場の両方で国民に向けてくり返し発せられたこのアナウンスは「立ちどまって考えたりせず、ただおとなしく見ていて下さい」というスペクタクル社会の従順な市民を集成し、管理するための命令であった(後略)
(小田マサノリ「都市ノ民族誌2東京フォークゲリラ・ノーリターンズ(別称=昭和残響伝)」より)