著作権のゆくえ
日本音楽著作権協会(JASRAC)という団体がある。当方は作曲家として会員登録している。そうすると毎月『JASRAC NOW』という会報が送られてくる。これが案外おもしろい。
この団体、著作権の使用料を徴収してはそれを権利者に配る、というメインの業務以外にも、セミナーとかコンサートとかコンファレンスとか色々こまめに開催している。『母と子の童謡コンサート』だの『下井草 次郎吉先生・喜寿記念コンサート』だの『アジアはひとつ 〜 悠久の時空(とき)をこえて』だのといった(ぜんぶ今でっちあげた架空の例です、念のため)イベント報告を読んでいると「つくづく世の中、いろんな音楽ジャンルがあるものよな…」と遠い目にならざるをえない。
けれどもやはりいちばん面白いのは「新たに入会された人々」の欄だ。ここには作曲家や作詞家の筆名と本名が、代表作と共にばっちり記載される。たとえば外国人かと思ってた「J.Graham」さんの本名が「山本虎造」さんだったり、本名「権田原しげ子」さんが筆名を「SHIGEKO」から「魔爾紅 -magic- 」に今月から変えました、とかいった個人情報があっけらかんと晒されているのです(←全て架空の例です。念のため)じっくり読むとなかなか味わい深いものがある。
そういえばおかしかったのが、会員になった月にいきなり「貴殿も入会して定期購読しませんか!」と送りつけられてきた同人誌みたいな本で、これはたぶん発行者が会員名簿でチェックしては新規入会者全員に送りつけてるんだろうな。自分の詞を売り込みたいアマチュアとかプロだけど売れない作詞家(まあ売れる作家がそんなことするわけない)の投稿が大量に載った冊子。
投稿者のしたためた、主として七五調の歌詞には「酒」「涙」「吐息」「夜霧」「根性」「生きざま」「おいら」「泣き虫」「ピエロ」…といった、もはや絶滅したと思われた歌謡曲ワードが順列組み合わせこれでもかとひしめきあっていて、あまりの内容に、一緒に眺めていた妻と笑い死にしそうになった。「腹をかかえる」とはよく言ったもので、人間、本当に笑いすぎると腹筋がちぎれそうに痛くなって、腹を手でおさえずにはいられないものですね。いっそ定期購読しようかと思ったな、あの時は。
しかし本来の会報『JASEAC NOW』に話を戻すと、そういった「娯楽」方面だけでなくマジな情報源としてもなかなかのものです。たとえば今月号には、著作権の「死後50年問題」が取り上げられていた。欧米の著作権保護期間はおおむね死後70年なのに日本は50年で短かすぎる。世界水準の70年に延長しよう!という要望をJASRACが文科省に提出したという報告。 その横には小さな囲み記事で、「YOU TUBE」に違法動画ファイルの削除要請を行ったという報告もあった。
当たり前だが、JASRACの存在意義は「著作権」という営利をいかに増やすかにかかってる。契約している会員としては、1円だって多く印税をもらいたいに決まってる。だから当然、著作権の保護期間は長くなった方が良いし、収入に結びつかない作品の流出は厳禁されなければならない。
しかしたとえば、あまりに偏狭な著作権の独占は創造力の枯渇につながり、けっきょく創作者の首をしめる事につながるという考え方もある。YOU TUBEのように大規模な「露出」は、逆に作品の知名度を高め宣伝効果を上げるという考え方もある。いま著作権団体に求められているのは、権利者の利益だけだけではなく、社会全体に有益な新しい「著作権」の発想ではないのか。たとえば一般企業だって、株主の利益だけを考える内向きの姿勢ではやっていけない時代ではないか。
とまあ、そんな事をつらつら考える格好の材料になるというわけだ。
そういえば今月は、今年上半期の分配実績も発表されていた。これも面白い。皆さんもご存知の通り、レコード会社やオリコンなどの発表ってのは色々と「裏」がある。早い話、実際の売り上げに関係なく、会社がプッシュしたいと思ってる商品が上位に並ぶよう操作されることだってありえるわけです。しかしJASRACの「分配実績」ってのは要するに実際に売り上げた数字なので、業界の動向としては、より正確な指標と考えて良い。
たとえば「CDが売れない」と言われて久しいけれど、いまだにCDの売り上げは前年度より下がり続けている。これはもう止まらないでしょうね。また、「着うた」の売り上げは増えたけど、それ以上に「着メロ」は大幅に減少している。この「着なんとか」って基本的にはパイが決まっている商売だから、ある程度普及し終わったところで売り上げは当然、頭うちになるよね。そのタイミングをみはからって次のハードが売り出される、というサイクルでここまで売り上げ続けてきた産業界の仕組みには頭が下がるけど…
逆に大きく伸びているのが「ビデオグラム」。要するにDVD。昨年より17パーセントほどの増収(って、金額で言うと88億円ですよ!)今やミュージックビデオも単なるプロムーション目的ではなく、商品として通用するようになってきたということか。いや、別の見方をすれば、映像つきでない「楽曲」単体に、商品価値がなくなってきたということでもある。これまでの音楽コンシューマーは今、怒濤の勢いで映像コンシューマーに変化してきているのだな。YOU TUBE(とかGOOGLE VIDEOとかその他無数の映像サイト)そしてIPODがその変化の核なのは間違いない。
と考えると、うーんやっぱりJASRACも単細胞にYOU TUBEの削除要請なんか出してる場合じゃないでしょう。むしろこうした「ネットと映像のビッグウェーヴ」にじゃんじゃんライディングして、将来につながる新しいビジョンを提案していくべきではないのかなあ。
著作権のゆくえ
日本音楽著作権協会(JASRAC)という団体がある。当方は作曲家として会員登録している。そうすると毎月『JASRAC NOW』という会報が送られてくる。これが案外おもしろい。
この団体、著作権の使用料を徴収してはそれを権利者に配る、というメインの業務以外にも、セミナーとかコンサートとかコンファレンスとか色々こまめに開催している。『母と子の童謡コンサート』だの『下井草 次郎吉先生・喜寿記念コンサート』だの『アジアはひとつ 〜 悠久の時空(とき)をこえて』だのといった(ぜんぶ今でっちあげた架空の例です、念のため)イベント報告を読んでいると「つくづく世の中、いろんな音楽ジャンルがあるものよな…」と遠い目にならざるをえない。
けれどもやはりいちばん面白いのは「新たに入会された人々」の欄だ。ここには作曲家や作詞家の筆名と本名が、代表作と共にばっちり記載される。たとえば外国人かと思ってた「J.Graham」さんの本名が「山本虎造」さんだったり、本名「権田原しげ子」さんが筆名を「SHIGEKO」から「魔爾紅 -magic- 」に今月から変えました、とかいった個人情報があっけらかんと晒されているのです(←全て架空の例です。念のため)じっくり読むとなかなか味わい深いものがある。
そういえばおかしかったのが、会員になった月にいきなり「貴殿も入会して定期購読しませんか!」と送りつけられてきた同人誌みたいな本で、これはたぶん発行者が会員名簿でチェックしては新規入会者全員に送りつけてるんだろうな。自分の詞を売り込みたいアマチュアとかプロだけど売れない作詞家(まあ売れる作家がそんなことするわけない)の投稿が大量に載った冊子。
投稿者のしたためた、主として七五調の歌詞には「酒」「涙」「吐息」「夜霧」「根性」「生きざま」「おいら」「泣き虫」「ピエロ」…といった、もはや絶滅したと思われた歌謡曲ワードが順列組み合わせこれでもかとひしめきあっていて、あまりの内容に、一緒に眺めていた妻と笑い死にしそうになった。「腹をかかえる」とはよく言ったもので、人間、本当に笑いすぎると腹筋がちぎれそうに痛くなって、腹を手でおさえずにはいられないものですね。いっそ定期購読しようかと思ったな、あの時は。
しかし本来の会報『JASEAC NOW』に話を戻すと、そういった「娯楽」方面だけでなくマジな情報源としてもなかなかのものです。たとえば今月号には、著作権の「死後50年問題」が取り上げられていた。欧米の著作権保護期間はおおむね死後70年なのに日本は50年で短かすぎる。世界水準の70年に延長しよう!という要望をJASRACが文科省に提出したという報告。 その横には小さな囲み記事で、「YOU TUBE」に違法動画ファイルの削除要請を行ったという報告もあった。
当たり前だが、JASRACの存在意義は「著作権」という営利をいかに増やすかにかかってる。契約している会員としては、1円だって多く印税をもらいたいに決まってる。だから当然、著作権の保護期間は長くなった方が良いし、収入に結びつかない作品の流出は厳禁されなければならない。
しかしたとえば、あまりに偏狭な著作権の独占は創造力の枯渇につながり、けっきょく創作者の首をしめる事につながるという考え方もある。YOU TUBEのように大規模な「露出」は、逆に作品の知名度を高め宣伝効果を上げるという考え方もある。いま著作権団体に求められているのは、権利者の利益だけだけではなく、社会全体に有益な新しい「著作権」の発想ではないのか。たとえば一般企業だって、株主の利益だけを考える内向きの姿勢ではやっていけない時代ではないか。
とまあ、そんな事をつらつら考える格好の材料になるというわけだ。
そういえば今月は、今年上半期の分配実績も発表されていた。これも面白い。皆さんもご存知の通り、レコード会社やオリコンなどの発表ってのは色々と「裏」がある。早い話、実際の売り上げに関係なく、会社がプッシュしたいと思ってる商品が上位に並ぶよう操作されることだってありえるわけです。しかしJASRACの「分配実績」ってのは要するに実際に売り上げた数字なので、業界の動向としては、より正確な指標と考えて良い。
たとえば「CDが売れない」と言われて久しいけれど、いまだにCDの売り上げは前年度より下がり続けている。これはもう止まらないでしょうね。また、「着うた」の売り上げは増えたけど、それ以上に「着メロ」は大幅に減少している。この「着なんとか」って基本的にはパイが決まっている商売だから、ある程度普及し終わったところで売り上げは当然、頭うちになるよね。そのタイミングをみはからって次のハードが売り出される、というサイクルでここまで売り上げ続けてきた産業界の仕組みには頭が下がるけど…
逆に大きく伸びているのが「ビデオグラム」。要するにDVD。昨年より17パーセントほどの増収(って、金額で言うと88億円ですよ!)今やミュージックビデオも単なるプロムーション目的ではなく、商品として通用するようになってきたということか。いや、別の見方をすれば、映像つきでない「楽曲」単体に、商品価値がなくなってきたということでもある。これまでの音楽コンシューマーは今、怒濤の勢いで映像コンシューマーに変化してきているのだな。YOU TUBE(とかGOOGLE VIDEOとかその他無数の映像サイト)そしてIPODがその変化の核なのは間違いない。
と考えると、うーんやっぱりJASRACも単細胞にYOU TUBEの削除要請なんか出してる場合じゃないでしょう。むしろこうした「ネットと映像のビッグウェーヴ」にじゃんじゃんライディングして、将来につながる新しいビジョンを提案していくべきではないのかなあ。