最終公演


音響構成論ゼミの最終課題コンサート。仕込みの昨日と同様、早朝から大学へ。学生たちの自主運営ライヴなので仕事と言っても現場に立ち会うだけなのだが、会場の鍵を開けたりする管理責任上、最初から最後までつきあわなくてはならないのだ。うう、眠い…。


基本的にはそれぞれがコツコツ音楽を制作するゼミなので、ライヴと言ってもその運営ノウハウを伝えたわけでも、演奏について指導したわけでもない。要するにシロウト。なのだが、動き始めると案外それぞれがそれっぽくイイ感じになってくるのはいつも感じるところ。理論的に研究を深めるのが大学の役割なのは無論だが、こうした「祭り」の場を提供するのもそれに負けず劣らず重要なのではないかと考える所以である。


クラス全員がスタッフとアーティストを兼任している上、どうせサウンドチェックやらリハやらで本番前まで昼食の暇もないだろうと思い、会場の隅にフランスパン、ハム、バターを用意してビストロサトル(過言)をオープン。これでワインがあれば完全にヨーロッパのフェスの楽屋といった感じだが、さすがにそれは(笑)コンビニ弁当やおにぎりを買い込むよりもスマートだしそれぞれが好きなだけ食べられるし、結果的に安上がりなのですこの方法は。


で、ライヴ本番。


DJあり、ラップトップ演奏あり、ラップトップと生楽器の合奏あり、フツーにロックなバンド演奏あり、中にはタンタントントンと包丁でリズムを刻みお料理のように音楽を作るチームもあったりエアギター演奏(?)もあったりと、ありていに言えば玉石混淆ながらバラエティに富んだ内容。最後にはまるで卒業式の担任教師よろしく花束贈呈までされてしまったよ。ありがとう皆さん!


もちろん終了後は打上げ。本番に輪をかけて盛り上がったのは言うまでもなく。

歌舞伎と江戸の音

WONO2008-01-07



夜、妻と歌舞伎座へ。初春大歌舞伎だ。


松竹梅をモチーフにした舞踊の『鶴寿千歳』、松の緑に紅白の鬘が目に鮮やかな『連獅子』、そして花魁たちの衣装をこれでもかと見せびらかす『助六由縁江戸桜』と、ビジュアル的にも絢爛豪華でまさに正月らしく目出たい演目が並ぶ。


とりわけ『連獅子』での松本幸四郎染五郎親子の競演には釘付け。なにしろダンサーとして超一流の印象を受けた。一朝一夕では到底身につくものではない「型」の美しさと、型を内側から破るエネルギーのバランスの良さ。伝統芸能ならではの凄み。


それにしても歌舞伎の音楽は面白い。雅楽能楽に比べてはるかに猥雑というかロック的なエネルギーに満ちている。また楽団自体が、オーケストラのようなコンダクションによって統率される組織になっていないところも魅力だ。


同時多発的に生起するメロディやビートが、たまたま重なり合わさったところ、結果として全体のサウンドが生まれていくような印象。つまりはヘテロフォニーなのだが、あらかじめ「楽曲」という概念があってそれをヘテロフォニーによって実現する…と目的論的に分析しようとすると見逃してしまうような何かが、そこにある気がする。


気になったので帰宅後、田中優子さんの『江戸の音』を引っぱり出して読み返してみた。


これはひとことで言えば、江戸時代の世俗音楽=ポップミュージックを軸に、日本人の音楽=音響的美意識について論考している本だ。たとえば次のような記述がある。

この三味線音楽は同じことのくりかえしでできているようでいて、少しずつ変わっており、それに従って前に進んでいる気でいると、いつの間にか元に戻っていているす。…これは表現しているというより、何かを示唆するだけで満足している音楽だ吉田秀和の文章からの引用)


結末を目指して構築していくソナタ形式のような西洋音楽の構造とは全くちがった方法論。いや「方法論」化される事を積極的に拒否するような音楽と言って良い。


著者はまた、音楽のみならず連歌連句といった文学の領域でも、同じような感覚がしばしば見受けられると述べている。

まるで繰り返しのようにみえても実は先に進んでいて、先に進んでいるのかなと思うと、どこかに曲がっていたり、その前がどこにあるのかわからない、これからどこに行くのかわからないけれども、とにかく歩いているみたいな歩き方


日本の「物語」の多くは、結末にたどり着くためにエピソードを垂直に積み上げていく西洋式の「物語」と全く違い、エピソードがぽんと投げ出されてはそれが回収されないまま次のエピソードへと水平移動していく。このことは、西洋の言葉は主語-目的語の関係が重要だが、日本語は形容詞が重要、といった言語構造上の違いとも関係するのかもしれない。


この本では後半、武満徹との対談の中で、さらに現代の音楽に通じる様々な論点も出てくる。

遠音(とおね)がいちばん綺麗だという考え方があるわけです。たとえば尺八などはなるべく遠音がいい、遠音を聴く、ということがあるわけです。[略] いちばん面白いのは、遠音の場合には、弱い音とか強い音という、いわゆる西洋音楽にとって非常に大事なダイナミック、フォルテとかピアノというのは、ほとんど意味をなさない。つまり、そこから聞こえてくるのは音色だけなんです(対談における武満の発言)


このように音色/音響を重視する姿勢。


あるいは先に挙げたような、非「構築」的な時間構造。


旋律、和声、リズムの絶対的な対応をあえて避け、ヘテロフォニーや偶発性の導入によって「中心」の発生を回避する音楽組織論。


……等々、どうやら江戸音楽には、我々が直面している音楽の袋小路を突破するヒントが、まだまだありそうだ。

営業再開

新年おめでとうございます。
南の旅から帰りました。
コンピュータのない生活は精神衛生上たいへんよろしい!


さてコンピュータのある生活に戻りまして、業務連絡。

土佐信道 監督作品『バカロボ 2007』


何やら目出たい感じの絵ヅラですね。
当方は音楽監督ということになっとります。


神保町 花月
(東京都千代田区神田神保町1-23 神保町シアタービル2F TEL 03-3219-0678)
1月5日-11日  11:45open 12:00start / 13:15open 13:30start
* 5日13時10分より監督舞台挨拶あり


渋谷 ヨシモト∞ホール
(東京都渋谷区宇田川町31−2 TEL 03-5459-3816)
1月5日 14:30 / 16:00 / 17:30 / 19:00 / 21:40
1月7日-11日 21:40


ルミネ the よしもと
(東京都新宿区新宿3−38−2 ルミネ新宿2 7F TEL 03-5339-1112)
1月5日-11日 21:30open 21:45start


以上どちらでも 前売:800円 当日:1000円
併映は後藤輝基監督作品『ニュース』だそうです。

良いお年を。

WONO2007-12-29



というわけで今年はなぜか年末になって色々と仕事が増えてしまい(いやありがたい事ですが)ぎりぎりまで落ち着かない日々が続きました。


電協ジャーナル(明和電機ファンクラブ会報)への原稿をようやく書き上げて送り(これもずいぶん遅れてしまいました。陳謝>編集担当Kさん)ようやく2007年の全仕事が終わった。終わった…よね?…何かまだやらなければならない事が残ってる気もするが…今日で官庁も仕事納めだったようだし、あとは来年送りとさせていただきます。


最後のBGMは、やはりこれで行きましょう。
http://www.youtube.com/watch?v=mTxQqPZo5jE


皆様1年間お世話になりました。
来年もどうぞごひいきに。
では良いお年を!

ダンゴムシ

WONO2007-12-27



ハッ!と目が醒めて枕元のデジタル時計を見ると表示は【9:30】。


ちなみにフライトは10:30の予定である。


こういう時、人は一瞬、ひっくり返されたダンゴ虫のように固まるのだな。


硬直した脳がそろそろと動き出す。…えーと、この近くの、大阪駅前から、リムジンバスで、空港まで、確か……30分…ぐらいだった…よな。 …って事は、今すぐ動けば間に合わなくもない…か? 急げーッ!!!!!!と、ここから突然10倍速モードになり、靴下探しながら歯ブラシくわえつつ待てよのんびり歯なんか磨いてる場合じゃねぇぞ、えーとパソコンはケータイは財布はどこだどこだ詰め込め詰め込め文字通りバタバタしながら部屋を飛び出すまできっかり5分間。ホテルをチェックアウトして「ヘイ、タクスィー!」と郷ひろみばりの指笛で路上のタクシーをつかまえブッ飛ばせ伊丹空港まで!!!!!


といった次第で今日もなんとか間に合って機上の人となったわけだが。こんな事ばかりやってると、こんなもんでも間に合うじゃん〆切なんて飛行機なんて。とナメた思考回路が体にしみつき、いつか本当に乗り遅れるのではないかと、今からそれだけが心配な今日この頃である。






そしてこの話には、部屋にノートパソコンの電源ケーブルを忘れるというオチがつきました。


あ わ て る と ろ く な こ と が な い  3 点




画像は本文とは関係ありません

今度は音の


今日こそは間に合わないと思った…。


我が家から至近の高樹町入口を目指すも,谷町ジャンクションまで渋滞表示が真っ赤。機転を効かせた運転手さん六本木通りから赤羽橋方面に降りてこれを回避し、芝公園から高速に乗ったらこれが大正解。その後はスムーズだったので、家を出て25分後には羽田到着。チェックインぎりぎりである出発15分前に滑り込むことができた。しかし心臓に悪いな。


ロケーションは先週と同じく万博記念公園。しかし今日はIMIではなくデジタルサウンド講座のゲスト講師。ホスト講師(なんて名前はないが)はおなじみの江夏くん。この講座は音をつくりたい人に特化された、やや専門学校的なコースなので、軸がはっきりしていて非常にやりやすい。


本日は指定された40秒間の映像にそれぞれ自由にサウンドトラックをつける演習の合評会。皆さん制作にはSEQUELを使っているので、出音の良さに驚愕。


というより、「このコースに参加して3ヶ月でこれ作りました」と言って皆が持ってくる音がどれもちゃんとできあがってることに驚愕。「生まれてこのかた自分で作曲したのはこれが4曲目です」とか言って持ってくる音が、ぜんぜん普通に聴ける音楽になっちゃってるのだから!!! もう、あのね、当方が費やした長い長いトレーニングはいったい何だったのかと(笑)


もちろん、そのほとんどはバンドルされたループ素材を使っているに過ぎないのだろうけど。今日のテーマはサウンドトラックなので、音楽的にどれだけオリジナリティがあるかではなく、映像にどれだけハマっているかが評価のポイントなのです。


その意味では、それなりに良い音で、そこそこ画面に同期した音さえ流れれば、ありものループだろうと素材が何だろうと、サウンドトラックとしてなら成立してしまうのが面白いところ。先週講評した映像作品とは違って、こちらはあくまで「課題」だという事もあって、気楽に楽しめました。受講者にとっても、単に制作技術を競い合うというより、1つの映像に対してどれだけ幅広い音の可能性があるかを実体験するケース・スタディとして、参考になったのではないか。



で、当方も模範作品を提出するはずだったのだが昨夜までの多忙で全く作っていなかった。いやあ悪い悪いと明るく謝ってみたら江夏先生「え?まずいなー、ヲノさんも模範作品つくってくれるって先週アナウンスしちゃったから、みんなメチャ期待してますよ」…な、なんですと…。やむをえじ。開講までのわずかな時間しかないが、制作にトライしてみた。


映像を観て、尺やタイミングをメモするところから初めて、ミックスダウンして完成するまで、与えられたのはジャスト2時間。間に合うか!? いや間に合わなかったらプロの面目まるつぶれではないか。MIDIキーボードなしで数値入力のみ。スピーカなしでヘッドフォンミックスのみ。という何重ものシバり条件下で作る、こういうプレッシャー、しかし決して嫌いではありません。


結果は、受講生の皆さんはおわかりの通り、ま、なんとか形になったのではないかと。プロとしての差別化という意味で、あえて「音響的」ではなくハーモニーやメロディを使った「音楽的」な作風を演じてみました。ノートナンバーとコントロールチェンジ入力でアナログシンセっぽいメロを打ち込むのは、指と目がすっごく疲れましたが(苦笑)


というわけでスキルを使いまくり、パワー値が落ちたのでエナジーを補給。と称して、その後は朝まで江夏くんや受講生、IMIスタッフらと痛飲。テキーラ!!!

夜も昼も、クリスマス

WONO2007-12-25



1週間も遅れていた原稿を徹夜&昼までの鬼執筆で完成させて送信。ふーーー安堵安堵。こんなに遅れても間に合うなら次回はもっと遅めでも大丈夫か…?と楽する方向に知恵が回りそうになる自分がそこにいる(←編集者激怒か…)


これはキーボード・マガジン『作曲世界遺産』の原稿でした。次回の世界遺産コール・ポーター作曲『ナイト・アンド・デイ』。ポーターについては前にもちょっと書いたけど、今回はそういう「影の部分」には全く触れず、音楽学的な分析だけ。


以前連載していた『サウンド&レコーディング・マガジン』という雑誌では、譜面を読めない読者に配慮して、いかに譜面なしで作曲理論をわからせるか、というのが一つの大きな制約であり工夫のしどころだった。キーマガは一応、キーボードをプレイする人が読者層なので、譜面で説明できるのがありがたい。ただしあまりマニアックに理論にこだわり過ぎても文章が読みづらくて面白くなくなるから、実はその辺のバランスが難しい。 というわけで毎号、非常に苦労してます (←主に編集者に向けた言い訳…)


ともあれ、一仕事終えたのであわてて家の中に電飾を吊ったりクリスマスツリーやらスノーボールやら飾って気分出し、夜はホームパーティ。シャンパンとワイン飲んで爆睡!(あ。実はまだ他にも〆切あるのに気づいた…)